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今回は地の文多めです
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そうしているうちに、昨日の庵へ辿り着いた。シナ先生が、ゆっくり引き戸を開ける。井草の香りがして、早希は、少し目を細めた。青臭い匂いだ、普段は感じない香りだから、一瞬驚く。昨日も、そうだった。
先生たちが、真面目な顔で、座っている――昨日より、数は少ない。授業があるからだろう。今ここにいる教師は、手の空いている人たちだ。シナ先生が入室を促す手振りをするのを待って、早希は、敷居を跨いだ。
「失礼します」
「天女様、昨日はゆっくり眠れたかの?」
部屋の中央に座る老人、学園長は、さも愉快そうに笑って、そう聞いた。窓から光が差している。明るい日の光だった。
「ええ」
本当は、いつもより、寝つきが悪かった。けれど、これも礼儀のひとつだと、早希は知っている。貰ったプレゼントにケチをつけて、親に怒られてしまったことを、きちんと覚えていた。
「学園長……」
「おお、そうじゃった。今日は、返事を聞くんじゃったな」
そばに控えていた教師のひとりが、学園長に耳打ちの仕草をする。そして、老人は、半ばわざとらしく、思い出してみせた。
「天女様、いかがしますか、この学園に残るか、出て行くか――」
「……この学園に、しばらくのあいだ、滞在させてもらえますか」
場の空気が、酷く硬くなったのが、早希にはわかった。予想はしている。予想はしていた。天女というのは、つまり、危険分子だ。そんな存在が、学園にとどまりたいと言っている。彼らは、使命感に狩られた。ただ、それだけのことだ。例えば、抜き打ちテストに、意表をつかれたときよりも……何十倍も、深刻なことだった。戦時の緊張感、命が危うい人間の発する怒気。未来人の少女にとって、戦争とはすなわちお伽話だった。どんなに残酷な映像を見せられても、どんなに人の死が報道されても、それは、フィクションとほとんど変わらなかった。けれど、ここではどうだろう? 本当の死を知っている人間ばかりだ。平和ぼけした小娘に、理解できるか? 理不尽の死者の存在を知っているとするなら、それに対する適当な態度だって、知っている。戦慄。悪意による死は、不慮の事故より重い……。
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はしまき(プロフ) - ありがとうございます。移転先でもテクマクさんの小説楽しく拝見させて頂きます(^^) (2019年7月25日 9時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - はしまきさん» おんなじですよ〜急に申し訳ないです汗 (2019年7月25日 1時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
はしまき(プロフ) - こんにちは、いつもこちらの小説楽しく拝見させて頂いてます。移転とこことですが小説名は移転先でも同じでしょうか? (2019年7月25日 1時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
東華@マスク教教祖(プロフ) - テクマクさん» こまめなお返事ありがとうございます! (2019年6月25日 6時) (レス) id: 7b392f353b (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - 東華@マスク教教祖さん» ありがとうございます! エタらないよう頑張ります……! (2019年6月25日 4時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テクマク | 作成日時:2019年4月3日 2時