| ページ11
あのあと、すぐに、昨日の女性が来た。食堂に案内されて、数多の敵意にさらされながら、早希は、焼き魚をつついている。ホッケだ。彼女は、ホッケの食べやすさが好きだった。ご飯に合うかと言われれば、鯖とか、アジとかの方が、
ずっと合うとは思っていたけど。
純和風。ここまで和食らしい和食を、現代で食べることは難しい。鯖の塩焼きを頼んでも、洋風のサラダがついていたりするし。子供は洋食の方が好きだし。和食は味が薄い、何より食べにくい。愛想をつかされて、今や健康食品ぐらいの扱いになっている。早希は、目の前の魚の小骨を避けて、身を呑みながら、ぼうっと、こうしてずっと貢献してきたのに、可哀想な奴め、なんてことを考えた。別に、本気で同情しているわけではない。そういう考えが、ふと湧いてきただけだった。
味噌汁を一口すすったところで、唐突に、早希のとなりにお盆が置かれた。
「やあ。君が噂の天女かい?」
気障ったらしい調子で話しかけてくるヤツがいる。こういうのは、無視するのが一番なのだ。けれど、
「どなたかな」
早希には、自分が齢18の大人である自負があった。つまり、子供っぽく、面倒を回避しようなどということを、プライドが許さなかった。
「平滝夜叉丸。学園一の美男子、全世界が渇望するアイドル! もしかして、ご存知ない?」
「うん」
「勿体ない!」
自信満々の表情。なるほど、たしかに美形ではある。しかし、学園一かはともかく、世界一のアイドルを自称できるかは怪しいだろう。ジョニー・デップや、ブラッド・ピットの面目が丸潰れだ……。
「この、ワタシを知らないと! お嬢さん、危うく、人生の半分……いや、人生の9割をドブに捨てるところでしたよ!」
陽気な少年だ、と早希は思う。そういえば、この滝夜叉丸という少年も、紫色の忍び装束を着ている。もしかしたら、さっきの彼と、知り合いなのかもしれない。
「このワタシの美しさは、世界どころか、宇宙をも驚愕させ、日本列島が大感涙……」
滝夜叉丸は、どうここまでいろんな言葉が出てくるのだろう、長々とした自画自賛の演説をしている。それを聞き流していると、いつのまにか、早希のお皿は、ほとんど空になっていた。最後に残った豆腐を挟んで、口へ運び、味噌汁を飲み干すと、席を立ち、微笑んで、
「ありがとう。あなたのような美人と出会えて、光栄極まりない」
本心だった。得体の知れない天女なんてものに時間を使うより、信頼の置ける人間に、自分の美を語ればいいのだ。
16人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はしまき(プロフ) - ありがとうございます。移転先でもテクマクさんの小説楽しく拝見させて頂きます(^^) (2019年7月25日 9時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - はしまきさん» おんなじですよ〜急に申し訳ないです汗 (2019年7月25日 1時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
はしまき(プロフ) - こんにちは、いつもこちらの小説楽しく拝見させて頂いてます。移転とこことですが小説名は移転先でも同じでしょうか? (2019年7月25日 1時) (レス) id: b90d5ba7ae (このIDを非表示/違反報告)
東華@マスク教教祖(プロフ) - テクマクさん» こまめなお返事ありがとうございます! (2019年6月25日 6時) (レス) id: 7b392f353b (このIDを非表示/違反報告)
テクマク(プロフ) - 東華@マスク教教祖さん» ありがとうございます! エタらないよう頑張ります……! (2019年6月25日 4時) (レス) id: a653a54844 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:テクマク | 作成日時:2019年4月3日 2時