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｢いてて｣
｢ご、ごめんなさい。手当なんてしたことなくて｣
｢いや大丈夫。つーかこんな大層なことするほどの怪我でもねえよ｣
｢……でも、私を助けたせいでついた傷だから。私が手当しないと｣
そう言って彼女は今度は袋から包帯を取り出した。……包帯！？
｢ちょ、待て流石に包帯はいらねえ！！大袈裟すぎる！！｣
｢いいからじっとして｣
｢いいってマジで、こんなんほっといたら治るって！｣
｢……じっとしてって、聞こえなかった？｣
そう言った女の目は本気だった。ギ、っと俺を睨む目は完全に殺人鬼のそれだった。｢ええ加減にしろや、この包帯お前の口に突っ込むぞ｣という声まで聞こえてきそう……いや、聞こえた。絶対聞こえた。
仕方なく手を差し出すと、女はまた黙々と包帯を巻いた。……大けが人みてえじゃねーかよー……。
｢……出来た｣
｢巻きすぎだ｣
ガチガチに巻かれた包帯は完全に包帯や脱臼をした時のそれだ。たかだか擦り傷で巻く量じゃない。が、文句を言うとまた睨まれそうなのでありがたくそのままにしておこう。でも、
｢ハンカチは洗って返させてくれ。さすがに悪ぃ｣
｢別にいい｣
｢俺がよくねえんだって。ほら、貸して｣
｢……いいのに｣
そう言って渋々赤いシミがついたハンカチを渡すそいつ。イニシャルと控えめな花の刺繍がワンポイントでついているそれはどう見ても高級品だ。……改めて悪いことしたな。
｢いつでもいいから｣
｢おー……でもどうやって返せばいいんだよ。連絡先とか、｣
と、その時。少し強めの風が吹き、彼女の短い黒髪を攫った。白い頬、綺麗な輪郭が覆われる。髪と同じ色の、どこも見ていないような。でも何もかも全て見通しているような漆黒の瞳が、俺を映す。
にやりと歪められた赤い唇が、妙に印象的だった。
｢すぐ、わかるよ｣
女子高生にしては低く、艶かしい声が鼓膜を震わせる。
何だこれ。
なんだ、これ。
どくどくと心臓が早鐘を打つ。身動きが取れない。
左手に持ったハンカチが嘲笑うようにはためいた。
｢じゃあね、花巻｣
なんで俺の名前、と気づいたのは彼女が姿を消してからだった。
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続く (更新停止中)
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作者名：彗 | 作成日時：2019年4月26日 13時
