や○せた○しも似た事言ってた ページ26
飢えていたときに食べさせ、のどが渇いていたときに飲ませ、旅をしていたときに宿を貸す人こそ正しい人だとどこかの誰かが言ったらしい。
きっと山姥切にとって、阿津賀志山で出会ったこの翼を持つ、のんびりしていてどこか抜けている妖怪がそれにあたったのだ。
尽きかけた霊力の代わりに妖力を与え、疲弊した心に慈しみを注ぎ、己の領域に留まること許した。
苦しんでいた時に必要なものを与えてくれた。助けてくれた。見捨てないで、一緒にいてくれた。大切にしてくれた。
奇しくもその行いは、山姥切が審神者から与えられるべきものだった。
だからだろう。
「………っ、うん?」
「起きたかい?」
「ちょーぎくん…?」
「まったく。助けてもらっておいて言えることではないけどね、人に妖力注いで自分が枯渇するなんてちょっと考えなしなんじゃないかな?」
霊剣 山姥切。
魂そのものとも言えるその名を否定され尽くしたことで今は名乗れないでいるとはいえ、矜恃が失われたわけではない。
ぶっちゃけ妖怪というだけで、それも山に住んでいる時点で「山姥切」の範疇内。お誂え向きに女性でもある。
その柔らかな四肢を、細首を、刎ねてしまえばきっと「山姥切」としての名は手っ取り早く取り戻されるだろう。
それを自覚していながらしかし、その刃を彼女に向けて振る気は起きなかった。
与えられたなら与えたい。
山姥切長義にとって彼女はすでに、人間と同じ愛すべき存在である。
何かを与えられるほど余裕のある状況でないのが口惜しかった。
「あら、妖力切れ?これが?初めての体験だわ。あれね、ぶっ続けで泳いだ後陸に上がった時の感じに似てる」
「翼があるのにそんなに泳いだ経験が……?ああ、すまない。運ぶのに羽を少し引きずってしまった」
打刀として標準的な体格である山姥切では、意識を失った彼女を抱き上げて拠点まで運ぶのは少し難しかった。
身体だけなら普通に楽なのだが、なんせ立派な翼を持ってるので。
数分どうやって運ぶべきか悩んだ結果、多少羽を引きずることになるとはいえ背におぶる形になったのは妥当だろう。
「気にしないで。それよりもう日が暮れてしまったのね」
練度上げの大幅なロスタイム。
ごめんなさい、と子犬が耳を垂れている幻覚に襲われる。違う、相手は犬ではなく鳥だ。
山姥切はうっかり頭を撫でてしまいたくなる衝動を噛み殺し、「それこそ気にしないでくれ」と微笑んだ。
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翡翠琥珀@カリナと咲(プロフ) - ァ"ァ"ァ"好きぃ... (2022年3月31日 15時) (レス) @page42 id: cceed3ce75 (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - 返事がない只の屍のようだ。さん» ちょぎくんの布教が出来て嬉しいです!沼へようこそ。 (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - sesiroさん» ありがとうございます。成り鶴もよろしくお願いします (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
mokohu(プロフ) - まるさん» ありがとうございます (2021年3月5日 16時) (レス) id: 2e4fc5a96b (このIDを非表示/違反報告)
返事がない只の屍のようだ。 - はじめまして!そして完結おめでとうございます!!大好きです!!!終わってしまい寂しいですがちょぎ君、思い出して貰えて良かったね゙ぇ〜!(T△T)ズビィ この小説を切っ掛けでちょぎ君にハマりました!ありがとうございます!!(謎)これからも頑張って下さい! (2021年3月5日 12時) (レス) id: 2157a47614 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mokohu | 作者ホームページ:http://nanos.jp/atlant2d/
作成日時:2020年12月5日 14時