【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百五十五話　［引き金と銃声］ ページ9

覚悟はしていた。
福地との戦いの準備を立原の部屋でしていた時から、ずっと。



カチャン、キュ…



決戦前夜、念入りに銃の手入れをしていた。
月明かりが差し込む部屋で、弾丸の数を確認する。



『これが、もしかしたら私の命綱になるかもしれないのか』



指先で弾いてみれば乾いた金属音を立てて机を転がる弾丸。



ーよく考えて使ってくれー



これを渡したあの人は今何をしているだろうか？
わざわざ女性でも扱いやすい銃を選ぶ辺り、気が利いているのだろうが、そうであるなら普段から川に飛び込むのをやめてほしい。



「その、"普段"すら今は遠い存在…か」



この戦いに負ければあの日常は戻ってない。
キラキラしてて、色の溢れたあの日常は、壊されようとしている。



「お父さんならどうするか、貴方ならどうするか…そう考えるの、やめようと思います」



カチャン、最後の部品をはめて引き金に指をかけた。



「私は私の意思で、この引き金を引く」



誰かの意思を真似ることは簡単だ。
だがそれは"自分の意思ではない"という大義名分を得ているにすぎない。



「"小泉A"として、戦うんだ」









そう、決めた。
だからこんなの痛くも痒くもない。



「ふーっ、ふーっ…」



ダラダラと冷や汗が流れ、襲い来る吸血鬼を投げ飛ばし、拳銃で殴って、異能で止める。
福地と立原の戦いを掩護しつつ、自分の身は自分で守る。



「じゃ、ま…！！」



どこに隠れていたのか、ウジのように湧く吸血鬼を異能で止める。
一瞬、福地の意識が外れたのをAは見逃さなかった。



『今しかない！！』



Aの足は一直線に彼の元へと向かう。
一連の騒動の犯人、吸血鬼の生みの親。



『ブラム・ストーカーの異能を！！ここで強制的に解除する！！』



割れるように痛む頭を押さえながら彼が眠る棺桶へと走る。



「ッ」



「させねぇよ！！」



それを察知した福地がAの背中へと拾った石をその力で投げようとした瞬間、近くの壁がボコボコと崩れ、むき出しになった鉄骨が福地へと降り注ぐ。
明らかに立原の異能の限度を超えた力、これが神々の国の首都の真髄なのか、と福地は舌打ちをする。



「やれ！！A！！」



福地を何秒押さえられるか分からない。
やれ、それが何を意味するのかAには理解できた。
ブラムを殺して、全てを終わらせろ、と。



ドン



それは、たった一発の弾丸。



「…ぁ、」



真っ赤な血が、地面へと落ちた。

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