【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百六十五話　［結論が出ました］ ページ19

響いた銃声。
だが、放たれた弾丸は福地の命を刈り取ることはできなかった。



「…満足か？」



カラン。
福地の手の中で握りつぶされたちっぽけな弾丸が乾いた音を立てて地面に落ちる。



「判っていたことだろう」



スパイ映画の女主人公が使うような、一発しか装填できない銃弾が起死回生の一手になり得ないことくらい、判っていた。
太宰がジョークアイテムとしてふざけて渡してきた物の中から適当に選んだだけのコレが、英雄を殺す神具になるわけがない。



「…ッ、」



Aの唇から血が伝う。
それは吐いたものではなく、噛み締められすぎたせいで歯が唇を傷つけ、流れた悔恨の赤い雫であった。



「言い残すことはあるか…なんてありきたりな台詞、聞くまでもないか」



福地の刀がAの首に触れる。
青い刀身はほんの数ミリ動いた程度で喉を容易く突き破るだろう。



「強すぎる信念は時に身を滅ぼす。
媚びて尻尾を振るべき時があることを、母親なり、あの男なり、教えてはくれなかったか」



哀れみすら滲ませた福地の目の色に、Aは自嘲するように口角を上げる。
彼は知らないのだ、鳥籠の中で相手が望む姿を演じる絶望を。
自分の存在すら否定され、生きているのか死んでいるのかも判らない感覚を。
自分の足元がゆらゆらと水面のように揺れて立てなくなる自我の崩壊を。



「飼い殺されるくらいなら」



Aは知っている、それら全てを。
亡き妻の面影を無意識に重ねつつも愛してくれた父の愛憎、
義理の両親が金と時間をかけて完璧な義理の娘を育て上げようとした時の狂気、
魔女の娘として自分を壊し、都合の良い手駒にしようとした魔人の狡猾さ、
何もかもが、Aというアイデンティティを否定するものだった。
死のうとは思わない、だって生きると約束したから。
それでも、



「死んだ方がマシだ」



尻尾を振って、媚を売って、仲間どころか自分にすら嘘をついて寝返る？
そんな莫迦なことがあるか。



「自分を否定して偽りのAとして生きるくらいなら…誰かを不幸にする存在に成り下がるくらいなら…」



ぐっと、己の喉を刀に押し付ければ、皮膚に刃先が触れて僅かな痛みを感じた。
それでも、Aは壮絶な笑みを浮かべ、福地を見上げた。



「今ここで、私は死ぬ」



それが、答え。



「さぁ、さぁ、さぁ！！
私はお前達の手には堕ちない、殺せばいい！！
それが、小泉Aの選んだ結論だ！！」

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