【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百六十四話　［自分自身］ ページ18

あぁ、あぁ！！なんて悪趣味なのだろう！
福地はそう叫ぶのを寸前で堪えた。



「可哀想、本当に可哀想。
…私じゃなくて、お母さんならお前を理解できただろうに」



わざと他人の神経を逆撫でする言葉を吐き、優しい笑みを浮かべる。
福地は、それが魔女の、彼女の母親の性質がそうさせていると思っていた。
元々はそういった性質は持っていたはずだ。
残酷な支配者としての顔も、この少女は持ち合わせていた。
だが、同時にそれを嫌悪していたのも事実。



少女は、魔女ではなく別の生き物となることを選んだ。



母親のようにならないことを選び、太宰治という人間はそれを理解した上で少女を"小泉A"として育てた。
父親ですら"A"の全てを見ていなかったのに、
他人である彼が"Aそのもの"を見つめ、"A"として完成させた。



「私は、全く理解できない」



「…それが、お前の選んだ道か」



「そう、そうだ。
私はそちら側には行かない。お母さんと同じにはならない」



片方が欠けた目で、Aは叫ぶ。



「私は小泉Aであって、雪でも、魔女でもない」



強い目が、諦めることをやめた目が、福地を見上げる。



「私は、探偵社員の小泉Aだ」



Aがそう叫ぶと同時に、踏みつけられていない左手が小型の銃を福地に向ける。
片手で覆えて構うほど小さな、それでいて弾丸がしっかり入った銃だ。



「死んでも、お前をここで止める」



「…そんな豆鉄砲で、か？」



青白い顔で銃口を向ける少女の、なんと哀れなことか。
射程距離も短く、殺傷能力も乏しい銃で、数多の敵を葬ってきた福地を殺せると本気で考えているのだろうか？



「大人しくするなら、生かしておいてもいいんだがな」



彼女の異能は使える。
もしも"《大指令(ワンオーダー)》が持ち出せなくなった時、Aの異能は福地の武器となる。
だから今ここで殺すより、生かしておいた方が利はあるのだが。



「引き金を引くなら殺す。大人しくするなら生かしておいてやる」



「…はは、」



出血のせいか、カタカタと震える銃口。
怖いはずなのに、逃げたいはずなのに、少女は笑っていた。



「冗談」



タン。
一回、銃声が響いた。

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