【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 9

三百五十八話　［怒りの弾］ ページ12

ゴポリ、なにかが溢れる音がする。
彼の人の腹には深々と日本刀が突き刺さり、刺さった刃から血が伝った。



「が、…」



英雄の口から血が溢れる。
突き刺さったのは腹であるが、人間において重要な臓器を貫通していた。
明らかに動きが鈍くなった瞬間、続けて二連撃目が福地に到達する。



ダン



少女の持つ銃口が火をふく。
吐き出される弾丸を福地は体を捻ることで避けたが、それは囮だった。
視覚外から、音速の刀が福地の頭蓋骨目掛けて飛んでくる。



「む、…！！」



寸前でその刀を強化された腕で受け止めれば、



バリン


硝子のような音を立て、刀が粉々に砕け散る。
可能であればそのまま脳天を貫きたかったが、この際どちらでも良い。



「予定通りだぜ！！」



チカチカと点滅し始めた目で、立原は福地を睨みつける。
割れた刀の破片は細かな刃となり、福地の体に埋め込まれる。



「云ったろ！対策はしてあるってなぁ！！」



体に突き刺さった破片は金属操作により福地の体の中…血管を上っていく。
これこそが立原の首領の作戦、どのような英雄でも怪物でも、脳か心臓を貫けば死ぬという理論に基づいた合理的な作戦だ。



「映画の次回作は作れそうもねぇなぁ！！」



脂汗を流し、不敵に笑う立原とは対照的に、福地は己の体に突き刺さった破片を取り出す。
肉を抉り、己を殺しかねない破片を取り出す瞬間を見逃すほど彼女は優しくない。



「案外作れるかも…"偽りのサムライ"ってタイトルで」



血の気がひき、雪のようになった顔でAは壮絶に笑う。
その指先は引き金にかかり、逃げる福地の足を的確に捉えていた。



ー人を撃つなんて、嫌だったー



わざわざ海外まで行き、父は娘に銃の使い方を教えた。
今思えば、"こうなる"ことを分かっていたのもしれない。
妻がどんな人間であるか理解した上で、娘であるAが歩む人生を察していたのかもしれない。



ーねぇ、貴方はどこまで分かっていたの？ー



生きる術を教えてくれた父はもういない。
確認することはできない。
結局、父が愛していたのは母で、その延長線上にAがいただけなのだから。



ーでも、お陰で私は戦えるよー



理不尽な運命に、抗うことができる。
死を望まれる白雪姫が、英雄を倒す。



「正義を欺いた貴方にはお似合いの題名だと思わない？」



ダン



怒りを纏った弾丸が、偽りの正義を掲げた英雄の足を貫通した。

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