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最後の仕上げ ページ46

私が守れた約束は一つだけでした。



たった一つしか満足に守れませんでした。



私は強くなかったから、なにかを犠牲にしないといけなかったのです。



お母さん、私、貴女より年上になりました。



お父さん、ごめんなさい、貴方との約束を破ってしまう。



ーでも、でもねー



私、ちゃんと幸せだったよ。



「…行かなきゃ」



母が生前使っていた教会の外、彼岸花が咲き誇る花畑で寝転んでいた女が起き上がる。
もうここには来ない、そんな予感を残しながら。



「…A」



泣きそうな声で名前を呼ばれた気がした。
それでも、女が振り向くことは無かった。



「すみません、遅れてしまって」



美しい笑顔で職場の扉を開けると、皆がいる。
おはようとか、遅いぞとか、色んな声がする。



ー前回と同じ、でも貴方が居ないー



いつも通り仕事をしていても、川に飛び込んだり、仕事をサボったりする人はいない。
貴方の席には、彼がいる。



「またお昼はカレーですか?」



「あぁ、美味いぞ」



赤茶色の髪の、この世界の私の先輩。
貴方が助けたかったのは、彼でしょう?



ー貴方の、大切な人ー



良い人です、とても。
貴方が彼の生を望むのも理解できる。



「私、ちょっと休憩行ってきますね」



「A」



「はい?」



「あまり、無理はするなよ」



「!」



だからこそ、少しだけ嫉妬してしまう。
私の腹の中のものを知ってなお優しくしてくれる綺麗な心も、貴方の天秤を傾けた罪深さも。



「織田、先輩」



笑って、彼に最後の挨拶を。
貴方が嫌な人だったら少しでも楽になれたかもなんて、そんなことを思いながら。



「ありがとう、ございました」



泣くな、最後まで"貴方の代わり"になると決めたのだから。
仲間一人一人の顔を見て、ゆっくりと社の扉を閉める。
もう、見ることは出来ないから。
あぁ、私の拠り所、大切な場所、でも、でもね。



「もう、決めたの」



屋上に続く階段の前に立つ。
その階段が処刑台に続いているように感じられた。



カツン



案外、一歩を踏み出すのは簡単だった。
ヒールが音を立てながら導いてくれる。
一段のぼる度に今までの思い出が蘇る。



彼らも、この世界も、思い出も。



「私が、守るから」



脳裏に浮かぶ色鮮やかな思い出を焼き付けて、屋上の扉を開けた。
さぁ、最後の大仕事だ。

終点へ→←最後の喧嘩と最後の笑顔



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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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