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大嫌い ページ44

それは本当に突然のことだった。
仕事を終え、さぁ帰ろうと云う時に、ふと呼び止められたのだ。



「芥川」



何処か優しいような、それでいて明るい声。
耳に入ってくる美しい声は依頼人にも評判の筈なのに、芥川はそれが酷く嫌いだった。



「…なんだ」



振り向くとそこには、出会った当初と比べ女性らしい美しさを持つようになった同期が笑って立っていた。



「ねぇ、飲みに行かない?」



その笑顔を不快に思うよりも芥川は彼女が提案した意外な誘いに、黒い目を見開いた。



「本当にそれだけでいいのかい?奢るのに」



「貴様のようにテキーラをストレートで阿呆のように飲むほど僕は酒を好まぬ」



「そうでもしないと酔えないんだから仕方ないだろう」



薄暗く、しっとりとした音楽が流れるバーの一角。
腕の良いバーテンダーが作るカクテルは美味いが、
Aのものは莫迦みたいに度数が高い。
芥川は甘い酒をちびちびと煽る。



「酔いたい理由でもあるのか」



「…さぁね、でもたまには良いじゃないか。
君と飲むなんて初めてだろう、それに」



Aの紫色の瞳が、赤いカクテルをじっと見つめた。



「今回、だけだから」



赤い液体を飲み干した唇が、やけに赤く見えた。



「おい、飲み過ぎだぞ」



「いいんだよ別に。…今から云う事は、酔っ払いの戯言だと思ってよ」



新しい酒をぐいっと飲み干し、Aはクスクスと楽しそうに笑う。



「私ね、今すごく幸せなんだ」



まるで夢物語を語る少女のように、仄かに色づいた頬でAはそんなことを云う。



「全て上手くいっている、胸が満ち足りている。
幸せだ、こんなに心が穏やかになるのは久しぶりなんだ」



「そして全てが報われる瞬間が待ち遠しい」



「あぁ、私は幸せだ」



嬉しそうに笑いながらそんな言葉を紡ぐ。
芥川の手の中のグラスが、パシリと嫌な音を立てた。
白々しいことを、なにが幸せだ。



血の匂いを隠せているとでも?



偽りの笑顔に気づかないとでも?



小泉Aという存在を押し殺している事を知らないとでも?



「巫山戯るなよ」



芥川の手が、Aの胸ぐらを掴むのにそう時間はかからなかった。



「僕は貴様が嫌いだった。愛想も無く仏頂面の貴様が。
だがもっと嫌いなのは今の貴様だ」



芥川の言葉に、Aの瞳が一瞬揺れた。

最後の喧嘩と最後の笑顔→←全てを背負わせてしまう君へ



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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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