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雨が降る ページ41

その日は雨が降っていた。
ある孤児院では、雨が降っているからと中で遊ぶ子供と、外に飛び出す子供がいた。



「雨だ!」



「水たまりできてる!」



「こら!服が濡れちゃうでしょ!!」



外に飛び出す子供達を追いかける、白衣姿の女性。
金色の髪を靡かせる碧眼の彼女は、子供達を雨の中追いかけていると一人の子供に服を引っ張られた。



「エリスちゃん」



「先生って呼びなさい」



「お客さん、きてる」



そう云って子供が指差した先、孤児院の門の前には人がいた。
傘をさしたその人は、軽く会釈をする。
顔が見えた瞬間、エリスは目を見開いた。




「ユキ…」



主人のかつての友人によく似た女は、そっと微笑んだ。



「紅茶と珈琲、どちらがいいかな」



「珈琲でお願いします」



案内された院長室は、子供達の絵が飾られた温かな空間だった。
この施設の長である彼は、インスタント珈琲を作り、ふと女の方を向く。



「ミルクと砂糖は?」



「…お願いします」



静かな笑みを浮かべた女は、かつての友人によく似ていた。
白い肌も、赤い唇も、黒い髪も、紫色の瞳も。
笑顔もよく似ている、だが、何処か違って見える。




「君の名前を聞いても良いかな」



「小泉Aと申します。貴方は森鴎外様でいらっしゃいますね」



「あぁ、そうだ」



男、森は珈琲をAに渡して向かいのソファーに腰掛ける。



「さて、小泉A君。君は何故ここに来た?
ここの出身である中島敦君の事かな、それとも」



「もうすぐ、全て終わるので最後にお会いしようかと」



「…今、なんと?」



「漸くすべて終わるので、最後に母のご友人に会おうと思いまして」



「…やはり君は彼女の実の娘か」



「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません」



女は、かつての友人によく似た笑顔で笑った。
だがそれがなぜかとても悲しげに見えて、森は目を見開く。



「彼女は今、何処に」



「亡くなりました。父も故人です」



「…そうかい」



判っていた事だ、二十年も姿を現さない彼女が死んでいると。
だから、だからこそ。



「終わる、とはどういうことだい」



目の前の女は首をかしげて微笑む。
壊れてしまいそうな、儚げな笑みだった。



「あの人の役目が、終わるのです」



その笑みは**と、似ていた。
それは太宰か、それとも雪か。

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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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