垣間見える ページ40
その日は晴天だった。
ヨコハマの天気予報は軒並み晴れ、雲一つに晴天である。
「…飽きもせずよくもまあ来るもんだな」
ヨコハマの湾岸、海が見える墓地。
そこに似合わない洒落た格好の男の視線の先には、
名前の刻まれていない墓石の前で手を合わせる女。
「小泉A」
砂色の外套を羽織った、美しい女。
武装探偵社の、小泉Aである。
四年前より背が高くなり体つきも女性らしくなった彼女は、ゾッとするほど美しく成長した。
「四回忌には早ぇぞ」
男、中也は桃の花を墓に手向け、Aの隣にしゃがむ。
いつもならふざけたような話をふっかけてくる彼女が、今日はやけに静かだった。
女が手向けたのは見たこともない花だった。
桃色の、一見すると墓参りに向かない花だ。
「墓の場所は準幹部以上しか知らねぇ筈なのに手前はずーっと来やがるな」
何かあってはいけないから、ポートマフィア首領の墓の場所は極秘だった。
しかし彼女は四年も前からよく墓参りにきている。
四年前のあの日以来、すっかり変わってしまった笑顔で。
「…そうですね、もう、四年も経つ」
四年前、初めてこの墓に来た少女の目は赤くなっていた。
だが今ではあれが嘘であったように綺麗に笑う。
貼り付けたような、あの男を彷彿とさせる笑みは変わらない。
しかし、瞳の奥には僅かな冷たさと、仄暗いなにかを感じさせる。
「…今の手前は、この墓ン中で寝てる奴によく似てる」
Aはなにも答えない。
ただ、じっとその墓を見つめている。
「あの日、なにがあった？
此奴は頑なに手前との接触を俺たちに禁じていた。
手前と此奴は、一体なんの関係で」
潮の匂いを含んだ風が吹く。
一瞬、女の唇が動いた気がした。
だがその言葉が聞こえることは無かった。
「…そろそろ帰ります、私もやることがあるので、ね」
「あ、オイ」
「さようなら、ポートマフィアの新しい首領さん」
中也に微笑みかけるAは、やはりあの男に似ていた。
手をひらひらと振って、Aは消えていく。
中也は知らなかった、これっきり、あの女と会えなくなることを。
そして、残された花の意味を。
名前のない墓石に置かれた桃の花と、桃色の花。
その花の名前はネリネ、花言葉は。
ーまた会う日を楽しみにー
太宰治四回忌、三日前のことであった。
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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、！ (9月11日 0時) (
レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました！すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます！ (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - １年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます！ (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです！このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もこすけ
| 作成日時：2019年11月9日 21時
