【文スト】この世界と獣と魔女【BEAST】

私は駒にはならない ページ23

鳴った銃声の数は、チェスの駒の強さと比例している。
一回鳴ればポーン。
三回鳴ればナイト、ビショップ。
五回鳴ればルーク。
九回鳴ればクイーン。



『そして、地面の模様に合わせて駒を動かした方向に銃弾が進む！』



床の模様はチェスの盤上の代わりだったのだ。
最初、一斉に銃弾が放たれたのは一列に並べられたポーンがあるという意味だったのだ。



『つまりこの攻撃は、"チェスの動き"に見立てられていて、
それを先読みする事で大まかな場所を把握できる！！』



攻撃は、全てチェスのルールに則っている。
今までの攻撃を思い出し、大まかな駒の位置を把握する。
駒を動かしている者は、おそらく一人。
一人で二人分のゲームを楽しんでいる。
打ち方として、かなり頭が良い相手だろう。



『だからどうした、それより早く相手の手を読め！』



記憶と音を頼りに駒の位置を思い出し、その先を予測する。
常人ではまず不可能な芸当だった。
そもそもチェスであるということに気づくことすら奇跡に近い。
だが、Aには出来た。



『情報を集めろ、頭を回せ！』



瞬間的に記憶してしまう生まれ持った頭脳。
そして、瞬時に状況を把握して判断を下す力。
親譲りの才能、母の記憶力と父の判断力。



『次にビショップが右から来る』



弾丸は、寸分の狂いも無く右から飛んできた。
やはり、間違っていない。



『すべてを完璧に避けられる訳じゃあ無い。
でも、少なくともさっきより動ける！』



頭を動かすと同時に、体も動かす。
思考を止めても体を止めても死ぬ。



『上等だ』



最後のバルブに手を伸ばす。
その瞬間、最後の駒が動いた。



「「チェックメイト」」



別の場所で、二人の少女がそう呟く。



チェスも終わった、銃声が止む。
その隙に扉の方へ走り、ボタンを操作して開錠する。
扉が開き、光が部屋に差し込む。



ーやっぱり、生きてるー



視線の先には、ポートマフィアが二人。
生きている、やはり闇の支配者は伊達では無かった。
あちらはあまり怪我をしていないが、こっちはところどころ血が出ている。
本来なら、こちらが追い詰められている状況だが、



「残念」



特大の罠さえ無ければ、勝っていたかもね。



「私の、勝ちだ」



少女は強い声でそう云った。
廃工場内のガス管が、気体の漏れる嫌な音をたてた。

獣が噛みつく→←チェスの盤上で

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