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いなくなったあの子 ページ2

福沢は後悔していた、あの少女を引き止められなかったことを。



「やはり…彼女は…」



数刻前、Aにある映像を見せた。
その瞬間彼女は怒りに全身を震わせ、社長からの言葉も無視して出て行ってしまった。



「…雪さん」



福沢は手をつかもうとしたが叶わなかった自身の大きな手を見つめる。
怒りに震える少女は、かつての友人とよく似ている。
顔を見た時、彼女が生きていたのかと勘違いしてしまうほどに。
しかし違う、性格も話し方もなにもかも。



「だが…あれは…」



魔女であった雪の片鱗を感じるほどの殺気。
雪が目に見えて起こることはなかった。
だが、笑顔で人を支配していた。
その片鱗がAにもたしかに見えた。



「織田」



「はい」



福沢は威厳のある声で織田を呼ぶ。
出て行ってしまったあの少女を、連れ戻す為に。



「Aを連れ戻せ、あの子はあのままでは危ない」



織田はその言葉に静かに頷くと、足早に社長室を出ていく。
織田はAが芥川と似ていることに気づいていた。



「…貴方の、血か」



Aは恐らく、雪の血縁者だろう。
あの目は、間違いなくそう思わせる。



『福沢さん、どうしました?』



かつて、魔女と呼ばれる女がいた。
裏社会を蹂躙し、裏で政府に手を貸していた異能者だ。
そして、若かりし日の福沢の友人でもあった。
名を、雪という。



『あら、随分怖いお顔ですね』



微笑む雪の足元には、夥しい量の血。
空間を操るという凄まじい威力の異能と、
冷酷な支配者の本質を持つ彼女の前ではどんな異能者も武器も赤子の玩具と同じ。



『…俺は普段からこんな顔だ』



『あら、それは失礼しました。うふふ』



『そう云う貴女は随分苛立っているようだな』



『…そんなことありませんよ?ほら』



雪は決して感情を表に出さなかった。
怒っているのか泣いているのか、はたまた本当に笑っているのかも判らない人だった。



『ねぇ…福沢さん』



血を一滴も浴びずに微笑む彼女は、闇夜に浮かぶ月を見上げて囁くように口を開く。



『私って、魔女なのか、獣なのか、天使なのか、悪魔なのか、
それとも化け物なのか…判りませんね』



彼女が姿を消すまで、福沢は雪と交友を持っていたが、
最後まで彼女の本心を見ることは叶わなかった。

嘘つきはだぁれ?→←名前のない物語の話



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ゆんこ(プロフ) - 夢小説で初めて泣きました…3周くらいしても毎回泣いてしまいます、! (9月11日 0時) (レス) @page50 id: ea003ef446 (このIDを非表示/違反報告)
蒼真 - ほんとにすごいです…何回も読み返しています…その度に泣いてますよ…ほんとに天才だと思います。いやこれまじでアニメ化して欲しい。小泉ちゃん大好きです!!!! (8月19日 15時) (レス) @page50 id: c4ce57e384 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 本当に久しぶりに物語を読んで泣きました!すごく心に響いて毎度毎度わかっているのに泣いてしまいます。この物語を描いてくださってありがとうございます! (8月14日 15時) (レス) @page50 id: d710d605b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - 1年ほど前からずっと本編も番外編もBRASTも読み返しています🥹一つ一つの表現が素晴らしすぎて、同じく小説を書いているのですが勉強させてもらってます。ずっと応援し続けます! (2022年10月27日 12時) (レス) id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
桜月(プロフ) - 本編、番外編を見てから来ました。二人のやりとりが本当に儚くもあり、切なくもあって、、本当に涙無しでは読めないくらい感動しました。素敵な作品に出会えて本当に良かったです!このような素敵な作品をありがとうございました。 (2021年9月21日 20時) (レス) @page50 id: df8a2b67ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年11月9日 21時

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