【文スト】この世界と番外編 その十五

唇と唇の衝突事故 ［睦月様リクエスト］ ページ7

キス、というものをご存知だろうか。
唇と唇もしくは唇とそれ以外を合わせる、アレだ。






「ロマンチックですわね」






「あー、うん、そうだね」







「とてつもない棒読みですわ」








頬を赤く染めて話すナオミの話を適当に受け答えをするA。
その手の話は得意ではないゆえの行動だ。
仕事終わり、ナオミと適当な喫茶店に入った帰り道の事である。







「トキメキませんの！？乙女の憧れですわ！」







「前にナオミが貸してくれた少女漫画みたいに、いきなりキスされたら」







ぐっと拳を握り、一言。







「殴り飛ばす自信がある」







「…不意打ちの代償が大きすぎますわ…
もう！太宰さんと同居しててそういった場面ありませんの！？」







「なんでそこで太宰さん出てくる」







「同居ですよ！？男女が、一つ屋根の下で暮らしてるのにですか！？」







「ナオミだって谷崎さんと暮らして…」








「私は兄様ですもの！当たり前ですわ！」







当たり前か？
社内で艶っぽく絡むアレが当たり前なのか？






「そもそも私は恋愛に興味もないし、キス…とか以ての外だから」







思えば、この言葉が前振りだったのかもしれない。
盛大な…フラグというものが立ったのだ。







「おや」







「うわ」







「あら」








数分後、人混みの中でばったりと会ってしまった男に、
Aは僅かに嫌そうな顔をし、ナオミは首を傾げた。
相手は、相変わらず貼り付けたような端正な笑みを浮かべている。







「お知り合いですの？」







「はい」







「全く」







ナオミが「どっちですの」と問うが、Aはあまり穏やかではなかった。
目の前にいる猟犬に、どうにも目が合わせられない。
猟犬部隊、条野採菊。
良くも悪くも思い出深い相手だ。







「Aさんってご友人居ましたのね私以外に」








「さっき適当に話切り上げたこと怒ってる？」








若干トゲのあるナオミはうふふと笑う。








「あ、ちょ、鐵腸さん前を見て」








「え」








前を向いた瞬間、条野が倒れてきた。
避けることも出来ず、受け止める形になった。







ふにっ







その瞬間、唇に柔らかな感触が伝わる。
なんだこれは、それを理解する前にAも勢いのまま倒れた。








「まあ！」








ナオミは、唇と唇でぶつかってしまった条野とAを見て、頬を染めた。
事件の始まりである。

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