【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 7

二百五十五話 ［完全犯罪の力］ ページ7

虫太郎はそれ以上母のことについて語ることは無かった。
いや、もしも話していたら逃走どころでは無かった。



『感情が制御できなくなる』



心配そうに肩に触れる敦の気遣いも、大丈夫かと声をかける鏡花の優しさも、
今は沸騰したような感情を落ち着かせるのに精一杯だった。


「…それにしても、安吾さんが…犯罪組織の長？信じられない…」


「今、奴に捕まれば私は死ぬまで囚われ…真相を知るお前達は消されるだろう。
…無論、魔女の血縁者なら問答無用だ」



「ッ…あぁ、そう…」



何故執拗にAが命を狙われるのか。
その理由を考えると、案外あっさり答えが出た。



『彼等は、私がお母さんの過去を知っていると思っているからだ。
死人に口なしと思っていたのに、娘である私が現れたから』


だから、消そうとした。
嗤いすら出てくる真相に、ぐしゃりと前髪を掴む。
腹の中で感情が暴れた。




『頭が、沸騰しそうだ』



被害者からの恨みなら幾らでも受けようと思っていた。
だがそれが本当は、口封じだったなんて。
握り締めすぎた掌に爪が食い込んだ。


「…だとしたら今のこの包囲網は最悪。
特務科の特殊部隊はマフィアも恐れる対異能者の専門家。
発見されたら毒瓦斯や爆撃を受けて詰む」



鏡花が低い声でそう答えた。
Aだけではなく、敦達も消されそうになっている。
この現状に、誰もが終わりだと思った。



「くく…」



そう、彼以外は。



「なら簡単だ、発見されなければいい」



彼は、虫太郎は得意げな顔でニヤリと笑った。



「お前達、私を誰だと思っている？」



虫太郎は懐から札束を取り出すと、それを各々に渡した。
そして、監視カメラがある方向に堂々と進む。



「堂々と歩け」



彼の異能はなんとなく理解していた。
だが、いざやるとなると緊張が走る。
一歩、また一歩と進む。



「…これは凄い」



監視カメラに映っている筈なのに、警備員すら来ない。



「見よ、楽々通過だ」



これが彼の異能力。
盗品を持って監視映像に映れば『犯罪の証拠を消す異能』によって自分たちの姿は消える。
あの乱歩を苦しめただけの事はある。
虫太郎は再び高笑いをし、訳の判らぬことを叫んだ。



「この絶対魔王を称えよ！」



「「声が大きい」」



それも、Aと鏡花に突きつけられたスタンガンと短刀に黙らされた。

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