二百九十六話 [糸の先] ページ48
空気が薄い、すごく、寒い。
『あぁ、落ちている』
うっすらと目を開ければ、真っ青な世界が広がっていて、
『この高さなら即死だな。
立原道造は信じてくれたかな』
自分はカジノから落ちた。
パラシュートなんてつけていないから、落下地点が陸であろうと海であろうと死ぬ。
『敦達はうまくやったかな。
あぁ、死んだら、与謝野先生に怒られてしまう』
きっと身元がわからないくらい無残に死ぬのだろう。
魔人の狙いの通り、この世から解放される。
全てを見透かしたようなあの男の笑顔が、ふと脳裏に浮かんだ。
「ふざけんな」
私の生き方を他人が決めるな。
お前の狙い通りの結末なんて吐き気がする。
悔しい、許せない、覆したい。
「死にたくないなぁ」
こんな、独りぼっちで死にたくなかった。
死にたくない、例え自分の未来が短いとしても。
「…ごめんなさい…××さん」
体にかかる重力に意識が遠のく。
きっと、もう目を覚ますことはできない。
あぁ、なんてふざけた御伽噺だろうか。
ぐしゃっ
その瞬間は、突然訪れた。
プツン
特別仕様の牢獄の中、瞑想をしていた福沢は目を見開いた。
異能発動の為、社員に繋がっていた糸がひとつ途切れた感覚。
それが誰なのか、考えるより先に口にしていた。
「A…?」
部下を繋ぐ糸、Aと繋がっていたはずのそれが確かに千切れたのだ。
ガシャン
同じ頃、ムルソーに嫌な音が響いた。
太宰の手にあった本が床に落ちたのだ。
「…ッ」
Aが死亡した、そんな報告が安吾から渡った。
カジノから落下した、生存の可能性は無いだろうと。
しかも、シグマも落下した上、猟犬の疑いを晴らすことも出来なかった。
「おや、どうしました?」
荒く息をする太宰は、顔を押さえて歯を食いしばる。
乱れた前髪の、指の隙間から見える目は憎しみに満ちていた。
「そんな、恐ろしい顔をして」
仲間内で出た最初の犠牲者、それがあの少女だとすれば、仲間へのダメージは相当なものとなる。
「貴方は貴方で陰謀の糸を張り巡らせたのでしょうが、
しかし神は完璧と調和を好む」
だから彼は更に彼らを追い込む為に本にある一行を加えた。
探偵社の無実を信じないという改変を。
「残念でしたね、アーンギル」
盤上から消えた天使。
しかし、犠牲が出てもこの戦いは終わらない。
その果てに何が見えるのか。
さぁ、誰が嘘つきでしょうか?
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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時