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二百九十五話 [雪の亀裂] ページ47

小さな少女が広くて寒い廊下をペタペタを歩いていた。



『…はぁ…』



肩にかけた羽織をぎゅっと体に寄せ、少女は赤く悴んだ手に息を吹きかけて温める。
視線を少しずらせば見せる庭には真っ白な雪が降り積もっていて、
息を吐けば同じように真っ白に染まる。



『…』



赤くなった手を頬に当てて暖を取り、少女は廊下を進んだ。
普段なら眠っている時間帯、少女は寝所から抜け出し、ある場所へと向かっていた。



カタン



目的の部屋の方向から音がして、少女は嬉しそうに少しだけ笑う。
いつもは結い上げたりまとめたりしている黒髪をおろし、寝巻き用の白い着物に真っ白い羽織をかけていた。
普段は白い肌が寒さで赤くなっていたが、それでも少女は嬉しそうに冷たい廊下を歩いていた。



『…、っ、…』



薄暗い屋敷の中、明かりが漏れる部屋がひとつ。
声のようなものも聞こえた。



『…だ…、わ…あの…』



少女は聞こえてきた声に少しだけ足を早める。
帰ってきた、久しぶりの声だ。



『お父さん』



少女は唯一の家族の帰りをどうしてもその日のうちに会いたかった。
暫くの間会えない日が続き、少女は父の帰りを心待ちにしていた。



『お父さん』



座敷の前に立つと、普段は声をかけてから障子を開けるのだが、
驚かせたくて少女は着物の袖で口元を押さえて、くふくふと笑いながら障子を静かに開けた。



『…ぃ、何故、貴女が…』




父は背を向けていて、障子を開けたことに気づいていない。
何かを見つめて話しているようだった。



『…?』



ふと、暖かい部屋に廊下の冷気が入ったことで気づいたのか、父がゆっくりこちらを向いた。
驚くだろうか、少し怒られるだろうか、期待に頬を赤く染めた少女に、
何故か悲しげな顔をしたまま彼は、



『雪…』



そう、亡き母の名前を口にした。



『え…?』



少女は立ちすくんだ。
父親は何度か瞬きをした後、立っているのが娘であると気づき、



『…あ』



驚愕と悲哀に染まった顔をした。



『ッ、…』



その顔を見た少女は、顔を真っ青にさせて部屋から飛び出した。
廊下を走っている途中、何度も頬が冷たくなって着物の袖で拭った。



『ッ、はぁ、はぁ…』



自室に飛び込み、姿見の布を乱暴に外す。



『…あ、ぁあ…!』



そこには、亡き母に瓜二つの少女が涙をボロボロとこぼす光景がうつっていた。
少女の悲しい嗚咽が、ただただ雪の降る夜に響いていた。

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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

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