【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 7

二百八十九話 ［護りたいものの為に］ ページ41

金属が空を裂き、壁に刺さる。
ナイフが空を裂き、血が舞う。



「ッ、らぁ！」



立原の拳がAの腹を狙う。
気絶させる為振るわれたそれが、腹に埋まる。



「…ッ、」



Aの顔が歪む。



「ぐっ…」



だが次の瞬間、立原は意識が一瞬飛んだのを感じた。
Aの足が立原の顎を蹴り上げたのだ。
腹に埋まっている拳は、当たる寸前でAにより受け止められていた。



「ッ、おま、え…！」



立原の片手が、Aの首めがけて振り下ろされる。



「『動くな』！！」



「！！」



立原の体が石像のように固まる。
その一瞬の隙を逃さず、Aは立原から距離を取る。



「ッ、はぁ、はぁ…！」



激しい頭痛と同時に、心臓が痛かった。
一つ一つの動きを意識していないと、今にも意識が飛んでしまいそうだ。



「ッ、くそ…」



頬を伝う汗を強引に拭う。
数秒すると、立原にかけた異能が解除される。
もう間も無く、異能発動禁止も解けるだろう。



「…ッ、『異能発動を』…！」



ドクン



「げほっ、…かはっ」



咳き込んだ瞬間、口に広がる嫌な味。
口を押さえていた手にも温かな液体が触れる感覚がする。



『あれ…？なにこれ…』



立原の顔が驚愕に染まる。



『この赤いの、なに？』



手についた、真っ赤な液体。
口に広がるのは、鉄の味。



「…あ」



Aの口から溢れたのは、真っ赤な血だった。
それは警告のようにも感じられた。



ーこれ以上使ったら死ぬぞ、とー



手についた血がやけに赤く感じる。



「『異能発動を禁ずる』」



だけど、思考は何処か冷静だった。
血を吐いた、それでもやめるわけにはいかないのだ。



「ッ、お前！もうやめろ！！」



再度、咳き込んで血を吐く。



「これ以上やったら死ぬ！！そこまでしてなにがしてぇんだよ！！」



なにがしたい？
そんなの決まっているだろう。



「この悪夢を止めたいッ、ただそれだけだ！！」



口の両端から血を流しながら、額に汗を浮かべながら、
白い顔を更に白くさせ、命を削りながら少女は戦う。



ー本当に此奴が犯人なのか？ー



立原の中で、そんな疑問が生まれた。
一瞬、ほんの一瞬の迷い。



ダン！！



一瞬の油断のあと、立原の目の前で血が舞った。
目の前には、赤い液体と、苦悶に満ちたAの顔。



「罪の代償を」



廊下の先には、黒い服を着た男…ホーソーンが立っていた。

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