二百八十二話 ［辿ってしまう運命］ ページ34
死は誰にでも平等に訪れる。
それが遅いか早いかの違い、母は早かった、父も早かった。
そして、多分自分も。
「…私は、もう間も無く死ぬと？」
「それは判らない、だがこのままでは間違いなくそうなる」
俯いたまま床を見つめるAに、シグマは気付かれぬように息を吐く。
"彼"の指示で揺さぶりをかけ、こちら側に引き込む。
簡単な話ではないが、今目の前にいる少女は揺らいでいる。
「…母親が政府の手駒であったことは知っているな？」
だから、もう一つ、彼女を揺らすものを与える。
「お前の母親は、異能を強引に与えられ、壊れた」
「…は？」
顔を上げた少女は、少女と女性の中間の顔で戸惑いの色を見せていた。
いや違う、彼女は子どもだ。
母の愛を十分に与えられる前に奪われた哀れな子ども。
「当時の政府は切り札となる異能者が欲しかった。
お前の母は、"強引に異能を植え付けられた被害者"だ」
許されない過去を、娘に教えてやる。
シグマだって、こんな話吐き気がする。
強引に異能を望まない相手に与えるなど許される行為ではない。
「政府に利用される運命を娘も辿ること…お前の母は望むと思うか？」
だからこそ、白々しいことを口にする自分に嫌気が差す。
母の過去を教えて、娘をこちら側に引き込む。
「小泉A」
手元のボタンを押して、手を拘束していた錠を外す。
「こちら側に来てくれるな？」
差し伸ばした手は、彼女にとって救いになる。
命を削らなくて済む、母の仇が取れるかもしれない。
「…《天人五衰》シグマ」
少女の喉が静かな音色を奏でた。
紫色の目がゆっくりとシグマを見上げる。
「私は、なにも…知らなかった」
そして、差し出された手にゆっくりと白い手が伸びる。
堕ちた、そう確信した。
「教えてくれて、ありがとう…そして」
白い手が、シグマの手を突然掴む。
振り解けないほどの力を込め、Aはシグマを見上げる。
「残念でした」
妖艶に、そして壮絶に少女は微笑んだ。
「死ぬかもしれない？母が利用されていた？」
ギリッ、とシグマの手をつかむ力が強くなる。
「だからどうした。
そんなの、自分でどうにかする。
異能だって…私の力なんだから後悔はしていない」
ショックを受けていないといえば嘘になる。
だが、そんなの百も承知だった、覚悟は出来ていた。
「私は諦めない、お前達の思い通りには、ならない」
今を生きる、それだけ。
二百八十三話 ［天才と秀才と凡人］→←二百八十一話 ［宣告］
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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (
レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス＆良いお年を！！ (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もこすけ
| 作成日時：2019年5月18日 18時
