【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 7

二百七十九話　［賞金首］ ページ31

カジノ全体が揺れる。
猟犬と、このカジノの支配人シグマが戦闘を始めたのだ。



「…始まった」



敦、鏡花、モンゴメリと顔を見合わせ、頷く。
このカジノに隠された秘密。
それは、火薬が内蔵された貨幣を世界各国にばら撒き、世界規模のテロを起こす事。
貨幣は物の価値を決めるもの、それが信用できないとなると、過去最悪の恐慌が起こる。
それこそが、《天人五衰》の第三段階、そして探偵社が阻止すべきもの。



「作戦の通り、敦と鏡花、私とモンゴメリさんで行動する」



彼らの作戦はこうだ。
猟犬とは戦わず、共闘する。
支配人を捕らえ、テロを阻止し、猟犬を味方につける。
敦と鏡花は通信室へ、Aとモンゴメリは囮。
何かあればモンゴメリの異能で逃げる。



『…でも、そう上手くはいかないだろう』



相手は天人五衰、そして指示しているのは魔人。
一筋縄ではいかない、そう考えた瞬間だった。



《全フロアに告ぐ》



部屋に設置されていたテレビがつき、そこにシグマらしき男が映った。
その横には、



《この少女を生きたまま捕縛せよ。
捕らえたものは百万ドルを賞金として与える》



見慣れた、Aの顔があった。
多額の賞金と共に、彼女が狙われる瞬間だった。



「成る程…そうくるか」



「ど、どうするの…！？これじゃあカジノ全体が敵になったようなものじゃ…」



既に廊下の方からは足音がして、Aの捕縛を狙う者達が動いていると判る。
先手を打たれた、青い顔をする敦達とは対照的にAは、



「…モンゴメリさん、ちょっと頼みたいことがあるのだけど」



「な、なにかしら…」



Aはフッと赤い唇を歪め、テレビにうつるシグマを指さした。



「招待されたからには、行ってやらないとね」



テレビで小泉Aの捕縛を放送した、僅か十分後。



「支配人！！」



部下が司令室に飛び込んできた。
屈強な男達の一人が、なにかを床に投げる。



「侵入者を捕縛いたしました」



後ろで縛られた手、口につけられた猿轡。
黒い髪から覗く、射抜かんばかりの強い瞳。



「魔女の、娘」



「第四フロアにて発見しました」



「…よくやった、下がれ」



部下達が出ていくと、部屋に残されたのはシグマとAのみ。
豪奢なカーペットに転がされた少女は、真っ直ぐとシグマを見つめている。



「…少し、話をしないか」



カジノを支配する彼は、天才か、それとも。

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