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二百六十四話 [まるで書き手の世界] ページ16

虫太郎は深いため息をついて鋭い目をした。



「だがお前達、五分後には後悔しているぞ。
何をどう訊ねても最悪の気分にしかならん情報だ」



覚悟はしている、この先に何があろうと。
安吾は眼鏡を押し上げながら一番大切な質問をした。



「《天人五衰》とは…何ですか?」



ゴクリと、誰かが喉を鳴らす中、虫太郎が語りだす。
天人五衰とは、テロ組織、構成員は五名。
魔人ドストエフスキー、道化師ゴーゴリの他に凄腕の異能者が二人、
そしてその上、彼等を束ねる『創設者』が存在する。



「あのドストエフスキーの更に上…!?」



「化け物の上には更に化け物、という訳か」



「連中の最終的な目的は知らん。
だがその一歩前の目標なら聞いている」



五人の化け物、その果てにのぞむものは。



「国家の"消滅"だ」



アンの部屋が、静まり返る。
誰も予想していなかった、まるで鉛玉でも腹に落とされたような重みだった。



「"消滅"…?"国家の転覆"ではなく?」



「む…無茶苦茶です!出来る訳がない!」



「不可能などあるものか、忘れたか?」



「…そうか、『本』…白紙の文学書があれば可能になる…!」



「そうだ、連中には『頁』がある」



書いたことを現実にする、本の頁。
それが彼等の手の中には有る。



「でも『頁』は一枚きりで、探偵社を陥れる時にはもう使った筈じゃ」



「その通り、だが使える、もう一度だけな」



「…そうか!まだ『裏頁』が…!」



「裏はまだ使われていない…!」



本の力を使うには、頁に凡て文章を書き込む必要があり、
そして頁は裏表ともに白紙。



「つまり…あの『惨劇』はもう一度起こせる。だとしても…」



「でも…だったら何故今すぐに書き込まないんでしょう?」



「本には『整合性』の制約があるからだ」



頁が発動するには、書いた内容が「物語的な因果整合性」を保っていなくてはならない。
その制約の為、彼等は頁に重要な事だけ書き込み、些末な部分は自分達で動くことにしたのだ。



『まるで、小説の世界のような話だ』



書いたことが現実となる本。
それはまるで、書き手が紙の上に物語を紡ぐようなもの。
紙の上の人間にとっては、それが自分達の人生となるのだ。



「これが、『本』の力…」



人の心も現実もコントロールする力は、筆を持った書き手のようだった。

二百六十五話 [記憶の欠片]→←二百六十三話 [もう戻れない時間]



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さんしょくだんご(プロフ) - この作品の中の文章の数々に心をうたれました。素晴らしい作品を本当にありがとうございます (7月24日 1時) (レス) @page49 id: 9ce43d97c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 田中りんさん» コメントありがとうございます。小泉は「これすごく便利では」と思い、喜んでいました。某幹部さんは爆発した瞬間、元相棒の仕業だと気づきました。メリークリスマス、そして良いお年を。 (2020年12月25日 19時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
田中りん(プロフ) - 初コメ失礼しますー 銃で喜ぶ小泉ちゃん…私もエアガンとか大好き人間なので人のこと云えない…某幹部さんは完全なるとばっちりですねwwメリークリスマス&良いお年を!! (2020年12月25日 0時) (レス) id: 59051e49c3 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - まっちょりさん» お久しぶりです。楽しみに待っていてくださりありがとうございます。皆様を楽しませることができる続編をかけるように頑張ります。応援よろしくお願いします。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 雪月さん» お久しぶりです。待っていてくださりありがとうございました。20巻は驚きの嵐でした。 (2020年12月18日 23時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年5月18日 18時

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