【文スト】この世界と番外編 その十三

二度目はなくってよ！ ［鶴媛様リクエスト］ ページ43

(こちらの作品では、小泉がマフィア所属となっております)






カツ、カツ…







薄暗い廊下に、ローファーの音が響く。
そこら中に監視カメラが置かれ、侵入者一人許さないマフィア本部。
その廊下を歩くのは、この場に不釣り合いな黒いセーラー服を着た少女。
背中まで伸びた黒い髪、雪のように白い肌、血塗られたような唇。
そして、"自分を勧誘した者"から貰った、黒のチョーカー。







「…ここか」







彼女の名前は小泉A、最近ポートマフィアに入った新人だ。
別世界に飛ばされ、行くあても無い所を拾われた。
幸か不幸か、こちら側で生きる才能と異能を持ち合わせており、
今はこうして顔さえ見せれば道をあけてもらえるほどの立場を得た。







『四年前にマフィアを抜けた幹部…か』







今Aが立っているのは、ポートマフィアの地下拷問室の扉の前。
上司は今ここにいるらしい。
どんな凄惨なことをしているのか、ゴクリと唾を飲んで、扉を開けた。







「二度目はなくってよ！！」








上司が、尊敬する上司が、ポートマフィア五大幹部が、重力遣いの中原中也が、
内股歩き、お嬢様言葉で背の高い男にそう云っていた。
その時の心情を五十字以内で述べよ。







「…ちゅ、うやさん…？」








「………A？」








中也は油が切れた人形のように、ギギギッと顔をこちらに向けた。
Aは珍しくその仏頂面を驚きに染め、そして口を手で押さえた。







「あの、違うんだこれは…」







考えろA、落ち着けA。
ここで間違った回答をすれば中也のプライドに傷をつけ、
今後の任務にすら影響が出るかもしれない。
だから、言葉は丁寧に選んだ。
慣れない笑顔を浮かべながら、穏やかに。







「私は、どんな中也さんにもついていくつもりです。
どんな趣味嗜好を持っていようとそれは変わりません」







Aは最善策を選んだつもりだった。
なのに、中也は次の瞬間には力なく崩れ落ちていた。







「人と違うからと責めるつもりはありません、私は中也さんがどんな人でも」







「やめろ…やめてくれ…」







「例えそれが内股であろうとお嬢様言葉であろうと変わりません」








「やめろ！手前の優しさはヒットマン並みなんだよ！！」







とうとう耐え切れずに叫んだ中也。
Aは頭にハテナを浮かべる。
そして…その後ろで捕まっていたはずの捕虜の男は大笑いしていた。

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