【文スト】この世界と番外編 その十二

魔女の惚れ薬大騒動 ［るいは様リクエスト］ ページ33

ある日、こちらの時代に遊びに来ていた雪は暇を持て余していた。





「退屈すぎて死んでしまいそう」






何か面白いことがしたいと思うが、福沢や森にちょっかいをかけるのも違う気がする。
なにか無いか、とワンピースのポケットに手を入れると小さな瓶があった。







「あぁ、惚れ薬入れてたんでした………あ」








薄い桃色の惚れ薬を見つめた雪は、不意に笑った。
面白いことを思いついてしまった、と口角を上げる。







「なんて面白いことを思いついたのでしょうか」








クスクス笑うその姿は、まさに魔女そのものであった。
彼女は指を重ね、そしてパチンと音を鳴らす。
その瞬間、彼女の姿は一瞬で消えた。







「だぁざぁいぃぃぃ！！」








探偵社にて、今日も今日とて国木田の怒号が響く。
もはや日常の光景、怒鳴らない日の方が珍しい。







「またジサツか！！いい加減川に飛び込むのをやめろ！見ろ！！Aの有様を！！」







「すごく艶かしいね」







「そういう事ではない！！」







「一回脳みそ入れ替えた方がいいと思います」







びしょ濡れの太宰を、同じくびしょ濡れのAが睨みつけた。
いい川だね、と飛び込んだ太宰を引き上げた為の有様である。







「そもそも貴様には誠実さが足りん！ジサツはするわ女性をナンパするわ仕事はサボるわ」







国木田の長〜い説教が始まる。
タオルで体の水分を拭き取りながらAは呆れた顔をした。
季節が季節なだけに、体が冷え、くしゅんと小さなくしゃみをした。







「どうぞ」







気づけば、暖かい珈琲が出されていた。
Aはありがとうございます、と礼を云ってそれを飲む。







『あれ…あんな事務員いたかな…』








何処か変声機で変えたような声を思い出し、コクリと喉を鳴らす。
妙な甘みを感じたのは気のせいだろう。







「お前の女性関係のせいでAが刺されかけたのも一回二回では無いだろう！！」







「病院送り二回」







「太宰ィィィィ！！」







「ちょ、国木田君、締まってる締まってる」







太宰も国木田くらい誠実ならな、とAは薄い目をした。
だがそろそろ止めないと本当に逝きそうだ。







「国木田さん、そろそろ…」







惚れ薬の効果は、飲んで最初に名前を呼んだ相手を好きになる。
そう呟いた雪は、事務員の服をその場に投げ捨て、これから起こるであろう喜劇に備え、双眼鏡を取り出すのだった。

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