【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ30

ニコリと笑った少年は、自分の子供。
中也は驚きの声をあげ、少年は予測していたように耳を塞ぐ。






「こど、っはぁ！？んなの信じられるわけねぇだろ！！」






「でも俺、結構父さんに似てると思うけど」







「父さんって呼ぶな！いや、似てるかもしんねぇけど…いや、ありえねぇよ！」







「すみませーん、ブラック珈琲一つ」







「聞けよ！！」







中也は混乱しまくった頭で考える。
子供、こいつが未来の俺の子供。
いやありえねぇ、どうせ異能者かなんかだ。
いやでもこいつの容姿、結構俺に似て…。







「…半信半疑って顔だね」







「当たり前だろ、第一、手前どうやってこっちに来たんだよ」







「俺の…ま、厳密には母さんの関係者の異能でね。
その人とはぐれてたらアンタを見つけたってわけ」







信じられない話だった。
少年は運ばれてきた珈琲を革手袋のまま優雅に飲む。






「…一応聞いておく、名前は」







「雪也」







「せつや…」







「雪に、アンタの名前の下の也をとって雪也。
雪は母さんの恩人の名前からとったらしい」







少年、雪也は珈琲を飲みながら、顔をしかめたりする中也を見てクスクスと笑う。







「面白いね」







「手前…普通そんなん云われたら混乱するだろうが…。
くそっ、なにがどうなってやがんだ」







「どうせなら探偵社に行って、母さんに会ってこようかなぁ」







「聞けよ」







中也の反応に、雪也は楽しそうに目を細める。
青と紫が混ざったような色が、一瞬あの少女の色に見えた。







「待て…手前今、探偵社って云ったか？
つまり手前の母親は探偵社の人間なんだな」







「そうだよ、それもあってか、母さん随分悩んだみたいだけど」







探偵社の人間、そして子どもの目は青紫色。
仮に青が中也だとしたら、紫色は。







「手前の…苗字は」







「一応二つ持ってるよ。一つは中原、アンタのものだ。もう一つは…」







心臓の音が近くで聞こえる。
勘違い、だろう。
だってあいつに限ってこんなことになるはず。
でもあの紫色はまさか。








「小泉」








その瞬間、中也は無言で立ち上がり、天高く拳を上げた。
勝った、勝利を確信した者の姿だった。







「うわぁ、母さんが俺が腹にいるって伝えた時と同じ反応してる」







雪也は正直すぎる中也を見て、死んだような目を向けるのだった。

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