【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ12

制限時間五分の話は本当だったらしく、あっという間に次の世界へ飛ばされる。
そして、駄目だこれは、と思った。






「…」






「…？なに君」






「…な…」






目の前にいるのは、学生服を着た乱歩。
年齢的には幼いのだろうが、今と対して見た目が変わってないことに驚く。
いや、今Aが固まっているのはそれが理由ではない。
乱歩の保護者のような形でそばにいた、彼に顔を見られたことで固まっているのだ。






「…雪、殿」






福沢と母は知り合いだった。
しかも彼女は誰にも告げずに失踪した。
そして、自分の顔は母と瓜二つ。
つまり、なにが云いたいか。






『逃げよう』







面倒ごとになる前に逃亡した。
文字通り、持ち前の瞬発力で五分のタイムリミットが来るまで二人の前から走り去ったのだ。






「な、待て！！」






「なんだかよく判んないけど、福沢さん頑張れー」







後ろから気配を感じるが、足音がしないのは彼が武人だからだろう。
逃げるA、追う福沢、ヤジを飛ばす乱歩。







「早く次に！！」







化け物的な速度で鬼ごっこをする少女と男の光景に、通行人はぎょっとする。
早く、次の世界に。
そう願って勢いよく通行止のカラーコーンを飛び越えた瞬間、世界が切り替わった。







「ッ、痛…」






飛び越えた速度のまま、受け身も取れずに思い切り膝を擦りむいた。
舌打ちをし手当する物を探していると、目の前にハンカチが差し出された。






「大丈夫かい、あんた」







「…あ、はい」







目の前に立つ、将来的には鉈を振り回す女医の幼少期の姿を見てつい敬語になってしまった。
これ、きっと探偵社員全員分回るんだろうなと思いつつ、与謝野(少女)からハンカチを受け取るのだった。






「みんな小さい頃から個性が強…んん、今と変わらないな」






仲間の幼少期を一瞬だけ見たAはそんなことを呟く。
正直、そろそろ疲れてきた。






『もうすぐ賢治の過去から別の人のところに飛ぶわけだから…消去法で残ったのは太宰さんか』







浮遊感に包まれ目を開けると、ギッと縄が軋んだ音を立てた。






「…」








無言で、目の前に垂れる縄をナイフで切った。
すると、ドサっという音と共に呻き声が聞こえる。







「ゲホッ…なに、するのさ…」







こちらを睨む少年に、Aは明後日の方向を向いた。
…なんでよりによって太宰少年の首吊りの現場に来たんだと。

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