【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ9

「ご迷惑をおかけしました」





芥川との乱闘を止め、部屋に連れて帰るなり、Aはそう云って頭を下げた。
申し訳なさそうな声に、怒るに怒れなくなってしまう。






「あー…まあ、手前はそこまで廊下壊した訳じゃねぇしな…」






壊したのはほぼ芥川の羅生門だし、Aがやったことと云えば芥川を殴った程度だ。
だからとりあえず、傷だらけの少女を責めることはやめた。






『ほんっとこいつに甘ぇよな…』






中也は悶々とそんなことを考えつつ、執務室の椅子に座った。
中也が座ると、Aはテキパキと仕事に手を付け始め、珈琲まで出す気の利きよう。






「その怪我」






特に怪我が酷かった右手を指差す。
そこには白い包帯が巻かれていた。






「大丈夫かよ」






「あぁ、はい。見た目ほど大したことはないかと」







あの芥川と異能ありとはいえこの程度で終えられるのは、ひとえに才能か。
熱い珈琲を啜り、鍛え甲斐があると思った瞬間。





「むしろ重症なのは芥川さんの方では？
腹に蹴りを入れた時、手応えを感じたので」






「ブフォッ…それ先に云えよ！」






取ってつけたようなさん付けで呼ばれた芥川の容体に、中也は慌てて樋口に連絡を入れた。
その光景を、Aは紫水晶のような瞳でじっと見つめていた。






『よく判らねぇ奴…』







中也とAの出会いは、中也が西方の小競り合いが予定より早く終わった日だった。
路地裏で死んだように倒れる少女に声をかけたのが始まり。
目を覚ました少女に妙に惹かれ、行くあてもないくせに何処かへ行こうとする少女を引き止め、
マフィアに抵抗がないことを知るとポートマフィアに連れ帰って部下にしたのはつい最近の話だ。







『異能者だった時は流石に驚いたがな』







異能を操る異能者だと判明した時は上から下まで大騒ぎだった。
しかも彼女自身、父親の教育の為一通りの体術は出来ており、並の男三人なら軽く投げ飛ばした。
それに加え、賢く頭の回転も速かった。
願ったり叶ったりな人材に喜ぶと同時に、彼女の性格もまたマフィアに合っていた。
才能、それを持ちながら慢心しない姿は好印象だった。
気が強いところも嫌いではなく、それも良いと思った。






『好きなようにやれ』







組ませた芥川と性格が合わなく、手合わせのたびに苛立ちを募らせるAに、中也が反撃の許可を出した時。
AS事件、通称芥川背負い投げ事件が起こるまでは。

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