【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ20

ポートマフィアの首領とその子(？)、幹部二人と、可愛がっている子供一人。
子ども二人のところはいいのだが、ポートマフィアの上層部との茶会など、
軍警が聞いたら卒倒しそうな内容である。







「A…手前本当に甘いの無理なんだな」






エリスに勧められたケーキは手つかずで、コーヒーゼリーを黙々と食べている。
それに対し、森はクスクスと笑った。
雪は甘いものは大好きで、逆に苦いものは嫌いだったのに。
母子でここまで違うものなのか。






「A、アップルパイはどう？」







「…それは食べる」







一瞬母のことが頭をよぎり、受け取るとエリスは嬉しそうに笑った。
紅葉と中也は不思議そうに顔を見合わせる。







「久作」







「ん、なぁに？」







先程からぴったりくっついているQの口元をそっと拭く。
Qは屈託のない笑みを浮かべてありがとうと云った。
Aの表情がふわりと、年相応に柔らかくなる。






「…」






「中也、その顔をやめんか」







なんとなく気に入らない光景に変な顔をする中也に紅葉がペシリと頭を叩いた。
大人気ない、その一言だった。







「仲が良いねぇ、君がここに居れば毎日会えるのだけどね」






その言葉に、一瞬空気が凍った。







「君のマフィア勧誘の話はまだ生きている。
来たくなったらいつでも大歓迎だよ」







森の真意は読めなく、隣でエリスが可憐に微笑む。
チラリと隣に視線を移すが、紅葉は特に反応も無く、中也も何もない。
つまり、肯定もしないが否定もしないのだ。







『流石マフィア、交渉もうまいことで』







Qに同情してマフィアに入るというのも悪くはない。
でも、






「ありがたいお話ですが、今は探偵社の方が性に合ってます。
それに、Qも寂しくないはずですから」







そう云うと、QはAのスカーフを巻いた人形を抱きしめて笑った。
森はやれやれと肩を落とす。
空気が漸く解けた。






「これは手強いね」







「うちの首領が悪かったのう、詫びに着物でもどうじゃ？」







「要らない」







「手前本当肝座ってんな…」







静かにカップを傾ける姿は不思議と以前のような仄暗さは感じなかった。
こうして、マフィア達の茶会は進んでいった。
途中、探偵社から抗議の電話が死ぬほどかかってきたが、電話番の広津の涙ぐましい努力によって
探偵社員が殴り込みに来ることはなんとか阻止された。

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