【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ15

「…これは酷い」





「俺の自信作です」






少年から渡された最近のテストの答案を見て、Aは青い顔をした。
対して、少年は何故かドヤ顔。
無言で頭を答案用紙で引っ叩いたのは仕方ない。
答案の点数は軒並み一桁、それか0。
目眩がした、ここまでとは。






「いや〜授業は聞いてるんスよ。
数学の教師の頭が薄めだとか理科の先生が美人だとか」






「そこじゃない、もっと別のところに目を向けろ」






「だって頭脳なんて生まれた時から決まってるものでしょ？
たまにいるけど、授業聞いてりゃ判る奴、お姉さんもそれっしょ」







たしかにそうだ。
自分は昔から一度見たり聞いたりすれば覚えた。
だが、Aはバン！と机を叩いた。
驚いて固まる少年にAはひたりと首筋に定規を当てて囁く。






「私は確かに大体のことは覚えられた。
でも毎日の予習復習は欠かさなかったし、判らないところは自分なりに調べた。
生まれつきの天才なんて広大な砂漠の水のように少ない。
誰だって最初はゼロからのスタートで、そこからの速度の問題なんだよ」







「お、おう…なるほどぉ…あの、首のこれ…」







「私は貴方のお母様に頼まれた。
亀並みの即座で、それもサボリながら走っている貴方を殴ってでも治してくれと」







あまりの迫力に顔の筋肉が固まっている少年。
Aは懐から逃亡防止用のロープを取り出して、赤い唇を僅かにあげた。







「勉強の時間だ、根元から叩き直してあげる」








そこから、超スパルタ勉強生活が始まった。
毎日数時間、各教科の勉強の宿題が出される。
もしもやらなかったら次はその倍。
ただし決して夜更かしや無理はさせない。
逃げては捕まえ、捕まっては勉強をし、たまに褒められる。
そんなことを続けること二週間。







「姉さん！俺、テストで70点取った！！」








探偵社の扉がいきなり開いて、答案を握りしめた少年が飛び込んできた。
どうやら成果は出たらしい。
Aはへぇ、と淡々と呟いてこう云った。







「それが貴方の本当の実力なんだよ。 …よく頑張った」







一瞬見せた微笑みに、少年の顔がポンっと赤くなる。
あ、落ちたなコレ、と何人か頭を押さえた。







「姉さん！次100点取ったら付き合ってくだ…」







「はぁい退場」







その後、太宰により追い出された少年が本当に100点のテストを持って再び現れるのは二ヶ月後のことである。

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