【文スト】この世界と番外編 その八

＊ ページ40

黒猫は相変わらず猫らしく、胸元から垂れる赤いリボンで遊んでいる。
時折、周りの猫や犬が自分に対して敵意丸出しの言葉をぶつけてきて、流石にこたえた。






『なんでおねーさんは他の猫に嫌われるんだろう、不思議だねぇ』






こっちが聞きたい、と思った時、再び足元に柔らかな感覚がした。
視線を落とすと、別の黒猫がこちらを見つめていた。






『いいですねぇ、ワタシもご一緒したいですぅ』






『あ、ワタクシもお願いしまーす』






『アタシもー』







そうこうしているうちに黒猫がワラワラとやってきて、辺りは黒猫パラダイスになった。
黒猫達は人一人で座っていたはずのベンチを満杯にして、各々話しかけてくる。
可愛い、可愛いのだがこの数はやばい。







「なんで黒猫なんだろう…」







『なんでですかねぇ』







ゴロゴロと擦り寄ってくる黒猫がそう答える。
黒猫は昔、魔女の使い魔とか、不吉の象徴とされたらしいが、
何故か自分は昔から黒猫にだけ好かれる。
撫でろ撫でろと寄ってくる猫達の中で、かなり年老いた猫がふと、答えた。







『昔にもいましたよ、黒猫に好かれる少女が』







へぇ、と対して気にも止めないで話を流す。
年老いた猫の『20年ほど前でしたか』という言葉は
他の猫の『近所の三毛猫が人間みたいなんですよぉ』という声にかき消された。







「そろそろ戻らないと、ほら降りて」







『嫌ですぅ、もっと遊びましょー』







『そうですー』







「わっ、ちょっ…」







帰ると云った途端黒猫達が飛びかかってきた。
引き剥がそうにも一匹剥がすと一匹ついてくる。
黒猫の攻撃に四苦八苦してると、ベンチから転がり落ちて更に群がる。







「…なにをしている」







頭上から非常に重々しい声がした。
途端、猫達は『ひぃ！！怖いですぅ！』と叫んで一目散に逃げ出す。
やっと黒猫地獄から解放されると、現れたのは福沢だった。






「…黒猫に、襲われてました…」







「…そうか」







すこし名残惜しそうに云う辺り、羨ましかったのだろう。
黒猫ばかりというのもなかなか珍しいが。







「…あの人も、黒猫に好かれていた」







その声はAの着信音にかき消され、
次の瞬間には「あのナマケモノ…」という静かな声と共にAが海の方まで走っていった。
太宰は海に流れ着いたか、と推理した福沢の脳裏に一瞬、
黒猫に囲まれてクスクス笑う今は亡き友人の姿が浮かんだ。

少女の非日常 ［菜乃柊様リクエスト］→←生き物たちのその声は ［白織様リクエスト］

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