【文スト】この世界と番外編 その八

生き物たちのその声は ［白織様リクエスト］ ページ39

『お腹すいた』





『まだ帰りたくないよーもっとお散歩したい』






朝起きたら、動物の言葉が判るようになった。
公園のど真ん中、道行く犬や猫、鳥の声を聞きながらAはベンチで青い顔をした。
二、三回頭を殴るが相変わらず動物の声が聞こえる。





「あぁ…とうとうおかしくなったんだ…」






与謝野の治療を受けねば。
いや、これは脳ではなく精神的なものか？
Aは頭の中で最寄りの脳外科と精神科の位置を思い出しつつ、深いため息をついた。
すると、足元にするりと何かが触れて、視線を落とす。






『ボクこの子好きー、みんなもおいでよー』






そこには真っ黒い猫がいた。
自分は動物全般に嫌われ、何故か黒猫にだけ好かれる。
正直、魔女っぽいなとすら思う。
黒猫は足に擦り寄りつつ、他の三毛猫や茶トラにも声をかけた。





『嫌だよ、なんか怖いもん』






『そうだよそうだよ！』






他の猫たちは遠くからシャーっと威嚇をしてくる。
だが黒猫は体をすり寄せ、ついには膝の上に飛び乗ってきた。






『安心するー、眠いなぁ』







「…寝てもいいけど爪は立てないでね」







すると、黒猫はビクンッと飛び跳ね、金色の目をこれでもかと開いた。
そして、柔らかい肉球でたしたしとAの体に触れる。






『ボクの言葉判るの？』






「まあ、うん…」







『凄い！じゃあ二丁目の顔に傷があるカラス、撃ち落としてくれる！？
ボクのことつつくんだよ！』







「ちょっと待って、なにそのバイオレンスなお願い」






可愛い顔から繰り出されるヨコハマ的喧嘩の内容についギョッとした。
黒猫はキョトンとして、こう返す。







『だってこの前、路地のところで銃撃って『落とし前はつける』とか云って
白髪のおじいさんとか銃使ってる茶髪のお兄さんとか、黒い髪で刀使う人とかが
良くないことした人にお仕置きしてたよ？』






そこまで聞いて、目を押さえて天を仰いだ。
間違いない、黒蜥蜴だ。
じゃあ今朝発見された遺体はマフィアの報復か。
一つ、仕事が片付いたが、これは下手したらヨコハマ中の秘密を聞いてしまうかもしれない。







『あとさっき包帯巻いたお兄さんが海に飛び込んで…』







「敦！太宰さん、海にいるから回収！！」







Aは携帯にそう叫ぶと、敦に太宰の回収を命じた。
猫はキョトンとしていたが、Aが疲れたようにしつつも喉を撫でるとゴロゴロと鳴くのだった。

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