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真っ白い顔で何処か不快そうにする少女に雪は、いじめすぎたかと微笑む。
まあ、どうせ関係のない世界の話だからどうだっていいだろう。





「さ、次で最後です。そんな怖い顔をしないで、楽しみましょう?」






そう云って手を掲げるとパチンと音を鳴らした。
次の瞬間には、目の前に広がる光景は変わっていた。






「ここ…墓地…?」






見渡す限り、冷たい墓石が並んでいる墓地。
海がよく見えて、潮風が当たる静かな場所だった。
雪はその墓地をスタスタと歩くと、ある一つの墓の前で立ち止まった。
周りの墓石と比べると随分綺麗で、比較的新しいもの。






「これが貴女のお墓です」






ゆっくりと視線を落とすと、そこには自分の名前が英語で刻まれていた。
それになんとも云えない気持ち悪さと消失感を覚えた。





「滅多にないでしょう、自分の墓を見るなんて」






「…こんなものが見せたかったの」






「いえ、違いますよ」






雪はついてきてください、と歩き出す。
少し歩くと、彼女はAの墓の近くの大きな木の下で立ち止まった。






「ここに暫く隠れていてください。あぁ、気配は消して」






「は…?」






「また迎えに来ますから」






ちょっと、そう云う前に雪は消えた。
なんなのだと思うと同時に、後ろから足音が聞こえ、反射的に隠れる。
その人物は砂色のコートをはためかせ…自分の墓の前でしゃがんだ。






『太宰さん…』






それは、太宰治だった。
彼は真っ白い百合の花を墓石の前に置く。
なんとなく、ここにいてはいけない気がした。






「…久しぶりだね」






太宰の声が聞こえてくる。
その声はとても、悲しそうだった。






「君が居なくなってそれなりに経ったけど、みんな慣れてないよ。
君の席はあるのに君がいない、みんな頭では理解してても心が追いつかない」






そんなに、悲しんでいたのか。
自分が死んだ程度で、そんな。
ぎゅっと拳を握り締める。






「ねぇ…」






サァ、と風が吹いた。
まるで彼の言葉をかき消すように。






「なんで、私を庇ったりなんてしたんだい?」






その言葉にAは咄嗟に彼の方を向いた。
思い出すのは、モンゴメリの話。
自分は、仲間を庇って死んだ。
まさか、庇った仲間というのは






「あの時、死ぬ筈だったのは私なのに」






太宰治。
Aは彼を庇って、その命を落とした。

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もこすけ(プロフ) - ReiLeiさん» コメントありがとうございます。そんなに読んでくださりましたか。とても嬉しいです。ありがとうございます。 (2018年12月26日 20時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ReiLei(プロフ) - 3週目するくらい面白い。 (2018年12月26日 17時) (レス) id: e65e94b2de (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 朧月さん» ありがとうございます。これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2018年10月28日 15時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
朧月(プロフ) - リクエストありがとうございました!これからも更新を楽しみに待っています\(^^)/ (2018年10月28日 15時) (レス) id: 061be1d3a8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 嬉しいお言葉ありがとうございます。こちらもリクエストをいただき、こうして書けることがとても楽しいです。皆様のおかげです。これからもよろしくお願いします。頑張ります。 (2018年10月27日 16時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年9月29日 19時

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