【文スト】この世界と番外編 その七

＊ ページ28

鬼ごっこ、彼女の口から出た、あまりにも可笑しな単語に敦は首をひねる。
可笑しい、噂しか聞かないが彼女はとんでもない実力の異能者のはず。
そんな彼女の口から鬼ごっこ？





「あの…今なんて？」






「だから、鬼ごっこです。
退屈を持て余しているので、暇つぶしに」






「…くだらぬ」





実力は気なるが餓鬼の遊びには付き合えない、
そう云わんばかりに芥川が踵を返そうとすると、
彼の顔の真横をナイフが二本、通り過ぎ壁に刺さった。
投げた本人である少女はニコリと微笑む。






「貴方、強くなりたいですか？」






「…なに？」







「貴方からは力への強い執着が見えます。
しかしそれは純粋な渇望ではない…まるで誰かに認められる為に力を振るっているよう」







ダン！と羅生門が少女の顔があったところに突き刺さる。
少女は首を傾け、羅生門を避けたまま血走った目の芥川に笑みを浮かべた。






「強い者を蹴落として勝者になる。
その為に私が手を貸しましょうか？」






「…貴様が強者だとでも云うのか」






「えぇ、こう見えても私」







口元に手を当てて少女は美しく、それでいて可憐に笑った。
その笑みに敦は肌が泡立つのを感じた。






「とっても、強いですから」






多くの者を葬ってきた者だけが漂わせる死の気配。
それを感じ取った芥川は肌を震わせながら、ニヤリと笑った。







「良いだろう、貴様の遊戯に付き合ってやる」







「おい、やめておけって…」






敦が止める間も無くゲームは決定された。
芥川が参加する為、問答無用で敦も加えられた。
鬼ごっこは少女が鬼で、二人が逃げる役。
気になったのはルール説明の時、






『私が誤って骸にしてしまったら私の負け。気絶はあなた方の負けです』





そこで逃げるべきだった。
敦は知らなかったのだ。
魔女が、どれほど恐ろしいかを。






「では、スタート」







パチンッと指を鳴らした瞬間、少女は建物の上に転送され、
そして…二人は空を見上げて固まった。







「頑張って生き延びてくださいね」






空から降ってくるのは雨でも雪でもない。
無数の、鋭利な刃物の雨。
血の気が引く暇もなく、二人は走り出した。






「な、なんだあれ！？」






「くくっ…やるようだなあの女…」







「やり過ぎ！」






こうして、捕まる前に死ぬ可能性大の鬼ごっこが始まった。
凶器の雨を走り抜けながら敦は泣きたくなったそうな。

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