【文スト】この世界と番外編 その七

魔女と虎と禍犬と［いちご様リクエスト］ ページ27

なんでもない日に芥川に会ってしまった。
協定があるので本来なら殺されたりなんかしないが、
その日は運悪く芥川の機嫌が非常に良くなかった。






「芥川！お前ッ、なにするんだよ！！」






「五月蝿い、ちょっとした運動だ、付き合え」







「異能使って襲ってくるのが運動！？頭おかしいのか！？」






「運良く死ね」







「芥川ぁぁぁ！！」







路地裏なのをいいことに、芥川は遠慮なしに羅生門を発動させる。
鋭い刃が敦の皮膚を掠め、血が頬を伝った。
冗談じゃない、と敦が己の手を虎化させた時。






「ふふ」







鈴を転がすような女の笑い声が響いた。
瞬間的に芥川は敵の存在を察知し、警戒を強める。
だが、前にも後ろにもいるのは憎い人虎だけで、女の姿などない。
すると、虎の目を持つ敦がピクリと反応し、上を向いた。
芥川もなんだ、と上を見る。







「…誰だ貴様は」








路地を作る建物の上、人が踏み込めないはずのところに座り、クスクスと笑う少女。
白いワンピースの裾を揺らし、Aの顔で楽しそうに笑っている。







「貴様…小泉Aか」







「ふふ、違いますよ？
私はただの見物人、虎と犬の喧嘩を見に来ただけですから」






少女の笑みに、芥川がゆらりと黒い影を揺らす。
敦がやめろと云う前に、羅生門は少女に向かっていた。
本来なら血の花が咲くはずだが…そこに少女は居なかった。






「なッ…」







「悪くない速さです。でも…私を殺すには弱い」






いつのまにか少女は芥川の後ろに立っていた。
舌打ちをした芥川が再び羅生門を向けるが、また少女は消え、離れたところに姿を現わす。







「良い顔ですね。まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔…可愛らしい」







「貴様…何者だ」







「あら、申し遅れました」








ふと、少女は呆然とする敦を見てクスリと笑った。
そしてワンピースの裾を持ち上げるとぺこりとお辞儀をする。






「私は魔女、人は私を悪魔とも呼びます。
以後、お見知り置きを」







魔女、Aの実の母。
支配者の片鱗を見せられた敦は唖然とし、同時に何故ここにと身構えた。
芥川もただならぬ気配を察知したようで、警戒態勢に入る。
すると彼女は微笑みながらこう云った。







「退屈なので、鬼ごっこでもしませんか？」







「「…は？」」








合わせたくもない二人の声は、見事に合わさった。
素っ頓狂ない声が路地に響く。

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