【文スト】この世界と番外編 その四

大人みたいな子ども ［00様リクエスト］ ページ20

その夜は珍しく雨が降り、雷も鳴っていた。
寝る前、太宰は「雷に打たれて死ぬのも悪くない」なんて云って社屋から飛び出そうとしたので、
服が濡れるし洗濯物が増えるからやめろと全力で止めた。
今思えば、その雷はこれから起こる事件の前兆だったのだろう。







ゴロゴロ…








まだ夜中の社屋で、布団にくるまりながらAは寝ていた。
同居人の太宰は畳二枚を挟んだ向こうで寝ている。
一応男女が同じところで寝るために配慮したことだ。







ゴロゴロ…








雷が近くで鳴っている。
その瞬間、空は白くなるほど眩しく光り、数秒遅れて切り裂くような大きな音がした。
まるで、真上から聞こえているような大きな音だった。







「…五月蝿い」








その音で目が覚めたAは不機嫌さが滲む声で起き上がる。







「結構近くに落ちた音がした…」








もしブレーカーが落ちていたら面倒だと思い、嫌々布団から抜け出る。
太宰を起こさないように忍び足でブレーカーを確認する。







「落ちてない…」







良かったと思いつつ、窓の外を見る。
まだ夜は明けていなく、雨が窓を揺らしていた。
朝までには止むかと思っていると、







「！？」







いきなり体が後ろに引っ張られた。
咄嗟に受け身を取る暇もなく、畳の上に転がる。
なんだと相手を確認するより早く額に冷たいものが押し付けられた。







「君、誰だい」








「…え？」








目の前には、自分に拳銃を突きつける、小柄な少年の姿があった。
年は十歳か十一歳そこらだろう。
体の重みで押さえつけ、片手はAの首を掴んでいる。
その少年の顔には見覚えがあった。







「太宰、さん？」







ボサボサの髪に整った目鼻立ち。
その少年はあまりにも太宰治に似ていた。
だが、自分が知る太宰治はこんな子どもではない。
少年は太宰の名を出すと顔を更に険しくさせ、銃口を更に強く額に押し付けた。







「何故僕の名前を知ってるんだい」









声変わり前の少年の声。
彼は、太宰の名を、自分の名だと云った。
と云うことは、







「貴方…太宰さん？」








この目の前の少年は、太宰治だと云う事になる。
あり得ない事態にAは寝起きの頭がだんだん鮮明になっていくのを感じると同時に、
銃口の冷たさに肝が冷えていくのも感じ取ることが出来た。

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