検索窓
今日:2 hit、昨日:174 hit、合計:2,821,783 hit

三十五話 [警戒する男は疑いを持つ] ページ37

中也は少女の姿を見て、しばらくボーッとしていた。
しかしすぐにハッと我に帰ると身構えた。



『俺は何を…!』



あんな子供に目を奪われてしまっていた。
紫色の瞳に吸い寄せられてしまった。
一瞬何もかも忘れてしまっていた。



「あの、本当に大丈夫?」



何も言わない中也にAが心配そうに聞く。
中也は彼女と一定の距離を保ちながら言った。



「誰だ手前ェ、彼奴らの仲間か」



恐ろしく低い声だった。
同時に発した殺気も彼女には感じ取れただろう。
Aの目が見開かれる。
しかし直ぐに落ち着いた様子で口を開く。



「…貴方があの男達に追われてるのを見た。
複数人だったから、危ないと思って」



中也の殺気は感じ取れただろう。
それでも彼女は逃げ出すことはなかった。



「こんな路地にわざわざ一人でか?
俺を見つけてどうするつもりだった?」



油断は一切せず、少女が妙な動きの一つでもしたら
喉笛をナイフで掻っ切るつもりだ。
彼女は中也の問いに躊躇う様子もなく、ただ一言、云った。



「…助けるつもりだった」



迷いも何も感じない声だった。
助けるつもり?こんな少女がか?
嘲るような笑いが口から漏れた。



「手前ェが?俺を?ハッ、馬鹿言うんじゃねぇよ。
そもそも手前ェ、何者なんだよ」



冷たく言い放ち、少女を見据える。
伏し目がちな瞳が細められ、長い睫毛が瞬いた。



「私は…」



少女の唇が言葉をかたどるまさにその瞬間、荒々しい足音が聞こえた。



「おい声が聞こえるぞ!」



「こっちか!!」



「チッ、彼奴ら来やがったか…」



どうやら二人の話し声が聞こえてしまったらしい。
中也は舌打ちをして少女を睨みつけた。
彼女がここに来なければ見つかることもなかっただろうに。



「命令違反だが仕方ねぇ…」



面倒ごとになる前に彼らを殺そうと、男達の方は向かおうとする。



「追い払えばいいの?」



「あ?何言ってやがる」



「あれ、追い払えばいいのかって聞いてるの」



「そうだが手前ェに出来るわけ…」



中也の言葉が終わらないうちに
彼女は男達の声がする方に駆けていった。
何をするつもりだ、止めようと手を伸ばすが
するりと躱されて手は宙を掴んだ。



「なんのつもりだ、あの餓鬼…」



次の瞬間、彼は彼女の行動に度肝を抜くことになることを彼はまだ知らない。

三十六話 [彼女は何者か]→←三十四話 [帽子男と少女]



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1187 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2605人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。