【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました

十四話 ［月の下の猛獣は］ ページ16

敦の骨が、肉が軋む音がする。
そして体が別の生き物に変貌を遂げていく。
それはまるで、



「虎…」



「彼が街に来たのが2週間、虎が街に現れたのも2週間前。
彼が鶴見川べりにいたのが4日前、同じ場所で虎が目撃されたのも4日前」



「同じ日時…」



「国木田君が云っていただろう。
『武装探偵社』は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。
巷間には知られていないがこの世には異能の者が少なからずいる」



武装探偵社、異能力。
嘘だと思っていた。
彼らはふざけているとすら思っていたのに。



「異能力って…そんなの現実にあるんですか…！？」



「生憎ね。御伽噺じゃなくて現実にあるのだよ」



敦の体が完全に変わっていく。
現実離れした光景に足元がふらついた。



「その力で成功する者もいれば…力を制御できずに身を滅ぼす者もいる」



敦だった者の目が、獣の目になる。
そうか、そういうことか。



「これが…施設を追い出された理由？」



「ご名答。彼だけが解っていなかったのだよ」



太宰がすっと"それ"を見据える。
全て解っていたかのように。



「君も『異能の者』だ」



こんなこと、あり得るのか？
Aは今まで体験したことのない混乱を覚えた。



「現身に飢虎を降ろす月下の能力者」



鋭い牙と爪。
光る獰猛な目。
真っ白い毛と巨大な体躯。
それはまるで



「白虎…！！」



彼女の脳に浮かぶ、一冊の本。
中島敦の書いた、山月記という小説。



「人が…虎に…、あの話と同じ…！」



かつて読んだ本と同じく、敦は虎になった。
そう、真っ白で美しい虎に。



オオオオオ！！



咆哮した虎が太宰に襲いかかる。
思考を止め、叫ぶ。



「危ない！！」



あんな猛獣に殴られようものなら即死だ。
太宰は虎をひらりとかわしたが虎が殴った所は大きく抉れている。



「ッ…」



このままでは太宰が死ぬ。
どうすればいい、このまま外に出たら、それどころか自分すらも。
様々な思いが渦巻く。



「敦…こっちを向いて…ッ、どうすれば…」



その時、今まで太宰を狙っていた虎が、ゆっくりとAの方を見た。



「…え」



まさかこちらを向くとは。
全く予想していない事態に固まる。
虎は、獰猛な鳴き声をあげながらAに向かって走る。



『あぁ、食い殺される』



死ぬ。
今度こそ殺される。
走馬灯と思わしきものが見えた瞬間、ぐいっと誰かに引っ張られた。

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