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十五話 [生への叫び] ページ17

引っ張られた瞬間、先ほどまで自分がいた所に虎の強烈な一撃が繰り出される。
あそこにいたら間違いなく死んでいた。
ゾワァッと鳥肌がたつ。



「だから云ったろう。
それにしてもこりゃ凄い力だ。
人の首くらい簡単に圧し折れる」



自身を引っ張ったのは太宰だった。
胸あたりに押し付けられる形で体が密着する。



「貴方…」



「私は太宰だよ。太宰治。
太宰さんとでも治さんとでも呼んでくれたまえ」



「云ってる場合か!」



抱き寄せられたまま、Aは叫ぶ。
虎は攻撃の手を止めず、二人に襲いかかる。



「銃は!?なにか武器ないんですか!?」



「私持ってないよ」



「このままじゃ本当に殺されますよ!」



珍しく声を荒げるAに太宰はおやおやと笑う。
太宰はAが感情を表に出せば出すほど楽しそうな表情をする。
対する彼女は全く楽しくもなく、むしろ焦っていた。



「君のその顔は見てると飽きないねぇ」



「ちょっ、どこ触って!!」



太宰の手が腰より下に行き、更にパニックになる。
自分の脳では処理しきれない状況に混乱し、同時に感情が表に出る。



「もっとそうやって顔を見せておくれ」



「何故!」



「私が楽しいからさ」



「本当に貴方嫌いだ!」



なんて会話をしていると、太宰が「おっと」と後ろに飛び退く。
後方は壁、前方に虎。
とうとう太宰とAは追い込まれた。



「ど、うする…このままじゃ…」



「死んでしまうねぇ。どうしよっか」



死という言葉に指先が冷たくなる。
伏し目がちな瞳が揺れる。
太宰は揺れる紫色の瞳を眺め、



「生きたいかい?」



とだけ聞いた。
本当は死ぬのも生きるのも辛い、でも、Aが唇を噛む。
瞬間、顔を上げて叫ぶ。



「当たり前だ!!」



その姿は美しかった。
生を望み、叫ぶ姿に目を奪われる。
太宰の口角が上がった。



「ふふふ…そうかい」



太宰が一歩、前に進む。
その先には跳躍した虎。
あぁ、もう駄目だ。



「獣に食い殺される最期も中々悪くはないが」



太宰の指先が虎に触れる。
瞬間、虎は青白い光に包まれる。



「私の能力は…あらゆる他の能力を触れただけで無効化する」



虎が、人間に戻る。
真っ白い虎は見慣れた友人の姿に戻った。



「これが…異能力…」



震える声で呟く。
彼女の瞳は目の前の光景をしっかりと見据え、そして受け入れていた。

十六話 [これが先触れ]→←十四話 [月の下の猛獣は]



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太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

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