【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました

四話 ［川の精霊を引き上げた］ ページ6

二人掛かりで川の精霊(？)を岸に引き上げた。
当然精霊でも亡霊でもなく、恐ろしく顔立ちの整った成人男性だった。



「…桃太郎」



「川から流れてきたから？」



「うん…」



ゲホゲホと咳き込みながら敦の桃太郎発言に納得する。
川に飛び込んだせいで全身ずぶ濡れだ。
制服がぴったり素肌にくっついて気持ち悪い。



「というかこの人は何…なんで川から流れてきた？」



濡れて明らかに重くなった髪を解いてぎゅーっと絞る。
黒い髪が首筋に張り付いて鬱陶しい。



「ッ…」



敦は顔を赤くして顔をそらす。
白い首筋に張り付いた髪がなんとなく色っぽくて顔をそらしたのだが当の本人は「？」と首を傾げる。
その時、



「うおっ！」



引き上げた男が突如目を開け、勢いよく起き上がった。
その切り替えの速さに軽く驚く。



「あ、あんた川に流されてて……大丈夫？」



「これだけピンピンしてるなら大丈夫でしょ」



男は辺りを見回すと落胆したように肩を落とし、



「助かったか。………ちぇっ」



『「ちぇっ」つったかこの人！？』



『確かに云ったな』



固まる二人に、男は言葉を続ける。



「君達かい？私の入水の邪魔をしたのは」



「邪魔なんて僕はただ助けようと…入水？」



敦は分かっていないようだがAは理解したのかジトーッと目を向けた。



「知らんかね入水。つまりジサツだよ」



「は？」



「危ない人だ」



第六感どころか五感が告げている。
かつて自分の近くにいた人達とは違う危なさがある。



「私はジサツしようとしていたのだ。それを君達が余計なことを」



「は…はあ」



「敦、川に返す？」



「まあ、人に迷惑をかけない清くクリーンなジサツが私の信条だ」



「クリーン…？」



「だのに君達に迷惑をかけた。これは此方の落ち度。何かお詫びを」



ぐうううう…



「何今の音」



「…空腹かい少年？」



地の底を這うような…不気味な音。
それは敦の腹の音だった。



「実はここ数日何も食べてなくて……」



ぐうううう…



「何今の音」



「私もだ。ちなみに財布も流された」



「ええ？助けたお礼にご馳走って流れだと思ったのに」



「心の声ダダ漏れだ…」



「？」



「？じゃねぇよ！」



カオスな現場に頭痛がしてきた。
その時どこから声がした。



「こんな処に居ったか唐変木！」

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