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二百二十二話 [一種の狂気] ページ22

自分が穏やかな性格だと思ったことは一度もない。
むしろ自分は気が強く苛烈で、容赦のない性格だと云うことは知っている。
今まで手にできなかったものに執着していることも全部。



『一度手に入れたんだ。もう離してやるものか』



云うなればそれは一種の狂気。
母親から受け継いだ歪み。
それでも、その狂気が武器になるのなら構わない。



『負けるか、絶対に』



鮮やかで苛烈で、残酷な世界。
そんな世界で生きると決めたのだから後悔はない。
フードを深く被り、廊下の先を睨む。



「…でも、大丈夫?あの男はかつての敵。私達を軍警に売るかも」



鏡花の云い分も最もだ。
不安は確かに残っている。



「『共喰い』で太宰さんは奴に上手く協力させた。僕達も上手くやるしか…」



「昨日の敵は今日の味方の可能性もある。
それに…協力させないと探偵社は終わる」



周囲を警戒しながら進んでいるとふいに敦の足が止まった。



「敦?」



「…血の匂いだ」



瞬間走り出した敦にAと鏡花は顔を見合わせ、それに続く。
廊下を駆け抜けると先の方に誰かが倒れているのが見えた。



「あれは…!」



倒れていたのは丸眼鏡の気弱そうな女性。
彼女は顔を血に染めながら呻く。



「貴方…達…は…!
わたしは…大丈夫…だから…早く…」



彼女は震える指で上の階に続く階段を指差した。



「フィッツジェラルド様を…!」



「ッ、敦行って!」



「二人とも、彼女を頼む!」



誰よりも足が速い敦が彼女の云うフィッツジェラルドの救出に向かう。
恐らく彼女の怪我は襲撃によるもの。
だとしたら上にいるフィッツジェラルドも危ない。



「鏡花、彼女の止血を」



「うん、でも私だけで出来る。貴女も上に行った方がいい」



もし襲撃者が強かったら敦一人では対処できない。
お願い、と云う鏡花にAは暫く考え、おもむろに立ち上がった。



「後は任せた」



鏡花が頷いたのを確認し、階段を駆け上がる。
敦ほどの速さが出せない自分を恨みながら
間に合ってくれ、と祈り、勢いよく階段をでた扉を開ける。



「敦!」



その時、ちょうど誰かが窓ガラスを破って逃走した。
壁に血のついた万年筆を残し、戦いは終わっていた。
それにホッとすると同時に、襲撃者という存在に事態の悪さを感じ目を細めた。

二百二十三話 [隠れ家と判っていた事]→←二百二十一話 [手離してやれない]



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riia - こんなに長いお話は初めてみるので尊敬します!他の夢小説よりちゃんとしていてすごく面白いです!神作だと思います!大好きです!登場人物の性格もちゃんと掴めていて見ていて楽しいです!ほんとに文ストの中に居そうで違和感がありません!設定とか凄いと思います!! (2022年8月5日 16時) (レス) @page24 id: 9d716aa4c8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - †三毛猫†さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。泣いていただけたようで、書いているこちらとしてはとてもありがたい事です。とても嬉しいです。これからもこの作品をよろしくお願いします。 (2019年5月19日 12時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
†三毛猫†(プロフ) - 毎回、夢主ちゃんの過去のお話しで泣いてしまいます。こんなに感動できる物語がかける作者さんを尊敬してます (2019年5月18日 19時) (レス) id: a139b9767e (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - さくらかつきのようになりたい←さん» コメントありがとうございます。そんなに喜んでいただけるとこちらとしても書いていてよかったと思います。近々、第7章を出しますのでよろしければ読んでください。皆様の応援、大変嬉しいです。今後とも、この作品をよろしくお願いします。 (2019年5月18日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
さくらかつきのようになりたい← - BEASTも楽しみにしてます!小泉ちゃんがどう活躍(?)するのか…アッダメだ私の脳じゃ思い付かない…!!(←)コホン…体調にも気を付けて、作者さんのペースで更新して下さい!(← 何か上からで済みません…!!)我々読者は何時までも待ち続けております!!長文失礼しました! (2019年5月17日 20時) (レス) id: 1276fff981 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年6月9日 19時

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