狐と人間 【小説】

episode 2　　【勉】の人 ページ11

目が覚めた。

今は何時なのだろうか。

布団から出て、時間を確認する。

午前九時。

本来なら学校にいるべき時間だ。

階段を下り、ダイニングへ。

母の置手紙を見る。

学校へ行くように、卒業できなくなるよ、そんな内容のことが書かれている。

…僕は独り言を呟く。

狐絃「安心してよ、母さん。卒業試験なんて、楽勝だから」

置手紙の隣にあった朝食を食べる。

機械的に着替え、天気予報を見て、黒のコートを手に取る。

狐絃「…行ってきます」

誰に言う訳でもなく、家を出る。

僕の足が向かう先は、いつも一つ。

二対の狛犬の間を抜け、鳥居をくぐる。

見慣れた砂利道に足を踏み入れ、絵馬の前へ。

――狐絃葉 in 勉学神社――

そこには、老人から子供まで、計５人いた。

狐絃「みなさん、おはようございます」

僕は挨拶をした。

まばらながら、挨拶が返ってくる。

老人「おはよう狐絃君。今日もよろしく頼むよ」

中学生「狐絃先輩おはようございます。ちょっと学校でヤバい事になっちゃって…」

子供「葉兄おはよう！今日は何して遊ぶ？」

親「ごめんね狐絃君。子供が、公園は飽きた、って…」

最後に目を合わせたのは、いつも学校をサボってここにいる、僕の友人だ。

鳩波(はとば)「や〜や〜狐絃。相変わらずサボってるのなあ」

狐絃「お前に言われたくはないね、鳩波」

軽口の応酬。

僕はもう、これが朝の習慣になっている。

それぞれの人にも差し障りなく返答を返し、今日の日程を発表する。

狐絃「午前中は、そこのお子さんの相手を。辻道場は昼頃に。夕方に勉強会とします」

その場の５人からの返事。

狐絃「じゃ、鳩波。遊んでやって」

鳩波「おいおい。日程とか言ってるのにお前がやらねえのかよ」

狐絃「知ってるだろ、僕は運動が好きじゃないんだ」

と。

本殿の方から盛大なくしゃみが聞こえてきた。

鳩波「お、お目覚めだな」

鳩波、そして僕がここに来る理由。

美琴「あ〜…風邪かな…あ、みなさんおはようございます！」

鳩波「おはようございます！美琴さん！」

鳩波が威勢(？)のいい返事を返す。

その他の４人も動きを止め、挨拶をする。

そして最後に僕。

狐絃「おはよう、ミコ。朝から凄いの出したね」

美琴「おはよ〜葉。出したくて出した訳じゃないけどね」

僕と鳩波がここにくる理由。

そう、僕たちはミコが好きなのだった。





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