#find out.22 ページ22
.
閑散とした廊下に、二つの足音が響く。
慣れた足取りでいつもの道順を辿って行き
すっかり身についてしまった動作で
扉を軽く2回叩いたあと、ゆっくりと扉を開く。
こんなことに慣れたくなんてなかったのに。
足を踏み入れれば、妙に静かな空間で
淡々と刻まれる機械音が私たちを包み込んだ。
そして今日も、いつもと変わらない彼の姿。
慣れというものは怖いものだ。
事故の日から1週間。
最初は取り乱すほど泣き崩れたのに
今は目の前で静かに眠る彼の姿を見ても
こんなにも冷静に受け入れるようになってしまった。
決して不安や恐怖が取り除かれたわけじゃない。
あのときと状況は変わらないはずなのに
時間が経てばある程度落ち着いてしまう心も
麻痺してしまいそうな自分の感情も
ずっと目を閉じたままの平野くんの姿が
あたりまえになってしまったらどうしようなんて
そんなことを考え始めてしまう自分自身も
嫌で嫌で仕方がなくて、怖かった。
小さな丸椅子に腰掛けた神宮寺が
手にぶら下げていたビニール袋から
おもむろに何かを取り出すと
それを平野くんの顔の前まで近づける。
『今日はこれ！いいだろー？』
悪戯な笑みを浮かべながら
開封した袋の中に手を突っ込んで
何か茶色い物を口に運んで頬張った。
「…なにそれ？」
あまり見慣れないものに目を凝らせば
その袋のパッケージを見せつけるように
神宮寺は腕を前に差し出してきた。
『ぬれおかき！』
「え？……ぬれおかき？」
頭にハテナを浮かべる私に神宮寺は
口をもぐもぐ動かしながら平然とした顔をしている。
『知らなかったの？紫耀の大好物』
「ぬれおかきが？」
コクンと頷いた神宮寺の手の中にある
お肉にも見えるソレをじっとみつめてみても
とてもじゃないけどおいしそうには見えない。
『ここに来るたびに紫耀の好きなものを
こうやって目の前で見せつけてやってんの』
そしたら起きそうじゃん？なんて
ぬれおかきを食べ続けてる神宮寺。
ちょっぴりバカっぽくて彼らしいなと思いながらも
無意識に硬くなっていた表情も
少し窮屈だった心も解けていく気がした。
「バカだねぇ」
『やってみないとわかんねーじゃん』
真面目な顔してそんなことをする神宮寺が
私は意外と嫌いじゃない。
.
#find out.23→←#find out.21 ーJinー
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 644人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
7日目の蝉(プロフ) - lemon09さん» lemon09さんコメントありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです…！そう言ってくださる方がいて本当によかったです。読んでくださってありがとうございました！ (2020年12月10日 22時) (
レス) id: 8841233121 (このIDを非表示/違反報告)
lemon09(プロフ) - 急に終わってしまって寂しくなっちゃいました（笑）でも面白かったです、お疲れ様でした。 (2020年12月9日 4時) (レス) id: 2975f730a7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：N | 作成日時：2020年3月12日 1時
