違和感の彼 ページ1
「そうだろうね。」
低くて落ち着いた、優しい声。
真っ直ぐな音。
まるでお母さんに頭を撫でられている時みたいに全てを委ねたくなってしまうような、心地の良い響き。
あの人は一体__________何、だろうか。
「…乃坂さん？」
「…ん？」
聞いたことのない声で、見たこともない容姿なのに
何故かひどく、懐かしい。
「どうしたの？ボーッとして。」
「あ…はは、何でもない。ごめんね。」
何でもなくは、なかったのだけれど
“何でもない” 以外に、この気持ちや状況をどう説明したらいいのか分からなくて
私はそう言って笑った。
だけどクラスに戻ってからも、その声は離れなくて
せっかく消えていたはずの違和感が
また私を襲おうと、顔を出した。
「今日は…晴れだ！」
それでも、折り畳み傘を持っていくことを
今日こそは忘れない。
高校で脱・ドジキャラを目指している私にとって
今日という日に傘を持って行くというミッションは、極めて重要だった。
朝ごはんを食べて、制服に着替えて、歯を磨いて。
「行ってきます！」
お父さんとお母さんに、挨拶をして。
靴を履いて、アスファルトの道を一本、まっすぐに歩いていく。
「…あ。」
ここまで順調に来ていた私だが、
校庭に咲く水色の紫陽花に
今しがた思い出したことがある。
「傘？！……わす、れた…！」
絶対持ってきただろう、という根拠のない安心感を携えて通学してきたものだから
私は思わず両掌を交互に見て確認してしまうほど驚いた。
______あぁもう、全く嫌になっちゃうな。
今朝起きた時は覚えていたし、あれだけ傘を持って行くと自分で自分に念を押していたというのに忘れるだなんて。
みんながスッキリとした顔で登校してくる中
私一人が絶望にくれたような顔つきで、窓の外をぼーっと眺めていた。
「…傘？」
そんな私の世界のガラスをぶち破るかのように、
誰かの一言が耳に刺さる。
「えっあ…えっと。」
この時の相手が瀬尾くんだったら
私はちっとも動揺なんてすることなく、会話ができたかもしれない。
だけどその声の持ち主はクラスの友達でも瀬尾くんでもなくて、
「あぁ、傘を忘れたのか。」
違和感の、彼だった。
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橋本アリィちゃん(プロフ) - とても泣けました！こんな感動作品を作って頂きありがとございました！今後とも応援しています！(*´ω｀*) (2021年11月4日 7時) (
レス) @page39 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
くゆぃ - この物語を生み出してくれてありがとうございます。余命あと1年で、辛くて仕方なかった時、まさに今、イナズマイレブンに出会って、野坂悠馬君が好きになって、あなたの小説を読ませていただきました。いなくなる前に、この小説を読めてよかった。よかった。ありがとう (2021年8月6日 23時) (レス) id: 47b282db84 (このIDを非表示/違反報告)
むい - ほんっとうにこの作品が大好きです！何度も泣かせていただきました。この小説が、命について深く考えるきっかけとなりました。最後に、本当に大好きです。ありがとうございました！ (2020年9月7日 14時) (レス) id: b5b9338b39 (このIDを非表示/違反報告)
ふるる。(プロフ) - 初コメ失礼します、ふるる。です！すっごくこの小説好きでした！命って大切だなと思ったし新しい生き方も学びました。完結おめでとうございます！ (2020年4月25日 10時) (レス) id: 28f80b2ad3 (このIDを非表示/違反報告)
岡部 愛(プロフ) - この作品であなたを知り、一気に最後まで読みました。しかし言葉が出てきません。とても好きで、好きだという気持ちをなんと表現したらいいか分かりません。この作品でたくさん泣きました。あなたの他の作品も是非読ませていただきます。 (2020年4月25日 8時) (レス) id: fa9bcb142e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年4月4日 9時
