二度目の梅雨 ページ42
刹那、蒼色の風が吹いた。
街中の至る所を通っては、道端の紫陽花の色を拾ってきたような風だ。
「野坂さん。」
そんな風の中で彼の声を聞きながら
頭の中で疼く痛みに、僕は一人耐えていた。
「…何？」
昨日薬をもらうために病院に行ったら
予想通り今すぐ入院することを勧められた。
だけどそんなことをしている暇は
この世界でも僕には与えられていない。
「大丈夫ですか？今朝から、顔色が。」
「あぁ…そういえば。」
蒼色の風を、無秩序に降りてきた雨雫が一筋
僕の目の前で弾け散った。
「もう六月だね、西蔭。」
「…えぇ。」
この世界に戻ってきてから、二度目の梅雨だ。
「西蔭、少し出かけてくるよ。後でまた連絡する。」
「どちらへ向かわれるのですか。」
「病院だよ。」
「病院…？やはり、どこか具合が悪いところでも。」
「いや。知り合いの元へ行くだけさ。」
西蔭の表情から、心配の色は消えない。
彼は本当に、僕のことについてやたらとお節介な時があるが
それほど大事にされているのかと思うと、特に悪い気分ではない。
事実、僕は今日薬をもらいに病院に来たわけではなくて
「やぁ…茜ちゃん。」
彼女と話をするためにここへ来た。
「頼んでおいた資料、見つけられたかな。」
彼女は無言、かつ無表情で頷き
僕にそのデータを手渡した。
「ありがとう。」
この世界に戻ってきて、はや1年だ。
この1年間、現時点で唯一のアレスシステム被害による入院患者、宮野茜との接触を続けてきた。
彼女は当初僕に対して敵意丸出しで、全く目も合わせてくれなければコミュニケーションを取る意思の欠片も見せなかったけれど
僕が根気強く、「アレスを潰す」計画を彼女に説き続けたところ
最近になってようやく僕に協力的になってくれたところだ。
万が一誰かに話を聞かれても取り繕えるよう、計画を遠回しに伝えなければならなかったのは些か面倒だったが
彼女の理解力に幾分助けられた。
それからこういう時、「理由もなく微笑む」ということができるようになった自分を褒めたくなる。
かつての僕が無表情で彼女に迫ったところで、今頃何の収穫も得られていなかっただろう。
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ｶﾄﾗｵ - はじめまして！！もちまるさんの小説に出会えて毎日仕事終わりに読むのが楽しみで仕方ありません。まだ全部読み切っては無いのですが、感動とドキドキの展開を毎日楽しみにしていることだけどうしても伝えたかったのでコメントを残します。 (2020年7月22日 21時) (
レス) id: eccc16e070 (このIDを非表示/違反報告)
miginoaoi(プロフ) - 全部読みました。ボロ泣きしてしまいました…すごく切なくて感動する話ですね。続気が気になりました！今は無理でも貴方様の更新をずっとまちます！ (2020年1月15日 0時) (レス) id: 5d51d334c7 (このIDを非表示/違反報告)
ハニートースト 通称,ハニトン！(プロフ) - 作者様の作品は全て読ませていただきましたが、完全に虜になりました。言葉選びが繊細で、儚くて、思わず世界に入り込んだ気分で読んでしまいます。こちらの小説なのですが、co shu nieというバンドのアマヤドリという曲がピッタリだったので、伝えてしまいました。 (2020年1月6日 19時) (レス) id: b6696be840 (このIDを非表示/違反報告)
聖羅(プロフ) - 初めまして。この小説を読んで泣きました。もちまる。さんの小説がとても大好きでずっと待ってました。これからもずっと応援してます！ (2019年12月24日 23時) (レス) id: 07b14ef242 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ☆(プロフ) - 初めまして。君の脳になりたいの方を読んで此方にきました。私、本や映画を見ても絶対泣かないのに、この小説と君の脳になりたいの小説では泣きました。私は今不登校で、死にたいって思ってたけど、これを見てまだ頑張ろって思えました。何年でも待ってます。頑張れ！ (2019年11月28日 14時) (レス) id: 65ed62dd2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2019年8月12日 21時
