七夕の夜 ページ11
「生きる…？」
君はビー玉のような瞳をより一層丸くして、僕に尋ねた。
「生きるよ。僕は生きる。君が死への恐怖を忘れられるくらい、君を幸せにするから。」
こんなことを自分が、自分の意思で、自分の口を使って言っているという事実が
我ながら少し、飲み込めないけれど
僕の言葉に、君の中のビー玉はみるみるうちに潤んでいった。
その表情に、彼女が背負っているものの重さや大きさが手に取るように分かってしまって
僕は今すぐにでも、そのビー玉から目を逸らしたい気分だった。
「ねぇ、野坂くん。」
そんな僕を逃さないように
震える声で君は言った。
「抱きしめても…いいかな。」
「…うん。」
君がどういう意図でそう言ったのかは分からない。
だけど今、僕にそれを断れるほどの勇気がないということは
誰にだって理解できるだろう。
僕は黙って君を抱きしめた。
すると君は、泣きながら言った。
「そっちのエゴの方が、好き。」
彼女の涙で生温かく濡れる肩が、妙に力んでいた。
「ねぇ。君は死ぬの。」
その不自然な力に、僕はすっかり気を惑わされてしまって
ついそんな言葉が口をついて出た。
我ながら、最低だと思った。
「死なないよ。」
だけどやっぱり、君は嘘をついた。
ほんの一瞬だけ、“死なない” という回答に舞い上がった自分がいたけれど
それがやっぱり嘘だと分かるまでに
そう時間はいらなかった。
「ねぇ野坂くん！野坂くんは、何をお願いするの？」
7月7日の夜、君はいつも通りの笑顔で
星空を見上げながら僕に尋ねた。
「…さぁ。」
箱根の神社といい、今日のような七夕といい
僕にとって願い事なんて変わらずくだらないものだけれど
君が一生懸命に何かを願うから、僕も願わなければならないと諦めた夜だった。
「君は？」
「私はね。」
この前は内緒にされた願い事を
今日は僕に暴露するつもりがあるらしい。
「この間は、野坂くんがちゃんと生きていけますようにってお願いしたんだけど、」
随分と風変わりな願い事だ。
僕は一度も、君の前で死んだことはないし
目の前で死んでいく君を見ていた僕の方が、その願いを切実に祈ることができるだろう。
「今回はね、野坂くんと_________。」
そこまで言ったところで、君は突然咳き込み始めて
その口を手で押さえた。
その手から筋を作って漏れる血に
君が死ぬという残酷な現実を、僕は認めざるを得なかった。
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ｶﾄﾗｵ - はじめまして！！もちまるさんの小説に出会えて毎日仕事終わりに読むのが楽しみで仕方ありません。まだ全部読み切っては無いのですが、感動とドキドキの展開を毎日楽しみにしていることだけどうしても伝えたかったのでコメントを残します。 (2020年7月22日 21時) (
レス) id: eccc16e070 (このIDを非表示/違反報告)
miginoaoi(プロフ) - 全部読みました。ボロ泣きしてしまいました…すごく切なくて感動する話ですね。続気が気になりました！今は無理でも貴方様の更新をずっとまちます！ (2020年1月15日 0時) (レス) id: 5d51d334c7 (このIDを非表示/違反報告)
ハニートースト 通称,ハニトン！(プロフ) - 作者様の作品は全て読ませていただきましたが、完全に虜になりました。言葉選びが繊細で、儚くて、思わず世界に入り込んだ気分で読んでしまいます。こちらの小説なのですが、co shu nieというバンドのアマヤドリという曲がピッタリだったので、伝えてしまいました。 (2020年1月6日 19時) (レス) id: b6696be840 (このIDを非表示/違反報告)
聖羅(プロフ) - 初めまして。この小説を読んで泣きました。もちまる。さんの小説がとても大好きでずっと待ってました。これからもずっと応援してます！ (2019年12月24日 23時) (レス) id: 07b14ef242 (このIDを非表示/違反報告)
ルナ☆(プロフ) - 初めまして。君の脳になりたいの方を読んで此方にきました。私、本や映画を見ても絶対泣かないのに、この小説と君の脳になりたいの小説では泣きました。私は今不登校で、死にたいって思ってたけど、これを見てまだ頑張ろって思えました。何年でも待ってます。頑張れ！ (2019年11月28日 14時) (レス) id: 65ed62dd2f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2019年8月12日 21時
