お風呂上がりマジック ページ3
彼の言ったことはつまり、「一緒に暮らそうと誘うのは好きな女の子だけ」ということと同値だ。
そしてあの日。家を無くすことになって呆然としていた私に、彼は言った。
“良い物件がある”と。
“僕の家”だと。
…これって、別に誘ったってわけじゃないのかな。
でもだとしたら、“そもそも”なんて先頭につけて話したのは何故？
あぁ_________分からない。
数学の論理思考分野はあんなに得意なのに、どうして彼の言ったことは全く整理できないんだろう。
「ねぇってば。大丈夫？」
再び深い深い考え事に沈んでいった私を、彼はしゃがんで見下ろした。
薄っぺらい部屋着から垣間見える、首筋と鎖骨。
“A？”と不思議そうに呟いた唇から上を辿れば、湿った睫毛と濡れたままの前髪に、いとも簡単にノックアウトされてしまう。
これ、2度目。私のHPはもう、限りなくゼロに近い。
「あ…うん。あれ？もう出たんだ。」
「もうって言っても、15分くらい経ってるけどね。」
しゃがんで出っ張った彼の両膝が、角ばっていた。
自分の膝とはまるで違う。男の子の、膝。
「おいで、A。早く乾かさないと風邪ひくよ。」
ぽん、ぽん。
2回だけゆっくりと私の頭を撫でてから、彼は立ち上がった。
彼が何を乾かそうと言っているのかすら分からないくらい、私の頭は故障中。
だけど目の前に差し出された彼の白い腕を、何となく手に取った。
「僕、さっきほんのちょっとからかっただけのつもりだったんだけど。力抜けちゃった？」
私の腕を引きながら、彼は言う。
あれのどこが“ほんのちょっと”だったのか、今すぐにでも彼を問いただしてやりたいところだ。
「…野坂くんも、まだ乾かしてないじゃん。」
「僕は君の後。」
その言葉と同時に、両肩に手を置かれてグン、と下に下げられる。
おっとと、と呟きながら強制的に椅子に座らされると、頭上で大きな音が鳴った。
「じ…自分でできるよ！子供じゃあるまいし…。」
「え？」
「自分でやるっ！」
「…何？」
ふわり、シャンプーのいい匂い。
それはたった今、私の目の前までその耳を持ってきた彼から香った風の匂いだ。
鼻先が、その体温の放射でほんのりと熱を感じる。
お風呂から上がったばかりだから、いつもの36.5度より少し、あたたかい。
「何でも…ない……です。」
匂いと温度に萎縮して、私の主張はスルスルと引っ込んでいった。
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ららん - 野坂くんのかっこよさにドキドキしてます！続きが気になります！ (2022年4月23日 8時) (
レス) id: 8ab8086b1e (このIDを非表示/違反報告)
もも - どっきどっきしてるよ〜!!!更新楽しみです('▽'*) (2021年5月6日 23時) (レス) id: 150f83a4c1 (このIDを非表示/違反報告)
絵菜 - やった〜〜続編だ！！更新待ってます！！ (2021年3月7日 13時) (レス) id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
はちみつ(プロフ) - とても面白いし、ドキドキしてニヤケ止まりませんでした笑更新頑張ってください！ (2020年12月27日 14時) (レス) id: 25159701e6 (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ - 続編おめでとうございます！このお話大っ好きです！！更新待ってます！！ (2020年11月4日 20時) (レス) id: 023268ba1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年9月10日 11時
