両手首の温度に ページ2
…よかった。
何が“よかった”のか、よく分からないけど。
「…ね？」
だけどそれは、どうやら私の早とちり。
パシン、という皮膚と皮膚のぶつかる音と同時に、彼の温度が両手首を襲った。
グイと両腕を開かれて、呆気なく露わになる私の両眼。
そこに映ったのは言うまでもなく、彼の真正面だ。
ハリのある胸筋、ボコっと出た上腕筋。
すごく筋肉が付いているというわけではないけれど、それはとてもしなやかで、白い肌はその見た目からして滑らかそう。
おまけに腕に浮き出た血管や鎖骨の窪みと対峙してしまえば、私に勝ち目など全くない。野坂くんの圧勝だ。
「ひゃっ……あ…うん。」
図らずして、変な声が出る。
それを誤魔化すかのように、低いトーンでの相槌。
目線をどこに遣ったらいいか分からなくてズルズルとそれを下げれば、クイっと出っ張る腰骨で目が止まる。
「ふふ、変なの。今日どうしちゃったの？」
目線と一緒に、顔まで動いていたらしい。
すっかり下を俯いた私の顔を、彼はつぶらな瞳で覗き込んだ。
「どっ…どうも！してないよ、別に。あと覗き込むの、」
「禁止？」
「……そう。」
“あはは”と軽く笑って、彼は漸く手首を離した。
最後に頭をぽん、と撫でてから、今度こそ洗面所の方へと向かっていく。
…おかしいな。
野坂くんのために早く出ようと思って、ほんの少しの時間しかお湯には浸かっていなかったのに。
何でこんなにクラクラして、上せてるんだろう。
_________ガチャリ。
漸く本当にドアの向こうへと消えていった彼を見て、全身の力がふっと抜ける。
ヘナヘナとその場にしゃがみ込んで、真っ先に強く感じたのは心臓の音。
ドッドッ、と煩くしつこく胸を叩いて、私から正常な思考を奪い去っていってしまう。
それから彼に掴まれていた手首は、ジンジンと熱を帯びて唸っていた。
…この人と2人で暮らす日々が、これからなんと1週間。
私、本当に大丈夫？
…生き延びてられる？
「…あれ、A？」
「……へ？」
そこでどのくらい思考停止してたのかは、分からない。
ただ薄茶色のフローリングをぼんやりと見つめて、どこにも焦点が合わないまま野坂くんのことをひたすらに考えていた。
そのうち8割くらいが、さっきのこと。
“そもそも好きでもない女の子、一緒に暮らそうなんて誘わないけどね”。
私の聞き間違いか、何かの勘違いか。
そう思ってあの時は誤魔化してしまったけれど、彼は確かに言ったのだ。
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ららん - 野坂くんのかっこよさにドキドキしてます！続きが気になります！ (2022年4月23日 8時) (
レス) id: 8ab8086b1e (このIDを非表示/違反報告)
もも - どっきどっきしてるよ〜!!!更新楽しみです('▽'*) (2021年5月6日 23時) (レス) id: 150f83a4c1 (このIDを非表示/違反報告)
絵菜 - やった〜〜続編だ！！更新待ってます！！ (2021年3月7日 13時) (レス) id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
はちみつ(プロフ) - とても面白いし、ドキドキしてニヤケ止まりませんでした笑更新頑張ってください！ (2020年12月27日 14時) (レス) id: 25159701e6 (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ - 続編おめでとうございます！このお話大っ好きです！！更新待ってます！！ (2020年11月4日 20時) (レス) id: 023268ba1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もちまる。 | 作成日時：2020年9月10日 11時
