夢の後先 (ページ40)

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atosaki 40 ページ40

【you】

8畳程の洋間
ローテーブルにスマホと時計
左脇には面、右脇に竹刀
剣道着で正座する22歳の女子大生。

もうすぐ10時。スマホが鳴るのを祈りながら深呼吸を繰り返す。

今日は第2志望、いや諸事情により第1志望に格上げされた社会福祉法人の採否が決まる日。

手駒はまだある。最終面接に呼ばれているところもあるし、これから筆記試験のところだって残っている。

でも、今日で決めたい。

『採用の方のみ10時から順次電話でご連絡します』

電話が無ければ不採用だ。

・・・無理、緊張しすぎて口から緑のモノか出そうだ。

一旦トイレでも行って落ち着こうと立ち上がる。そして大事なことに気づく。

袴を脱がなきゃトイレが出来ない！！！

ああどうしよう、ガチでトイレ行きたくなってきたし。
でも袴脱いじゃって電話来ちゃったりしたら、凄いマヌケなことになるし。
あれ？でも電話なら見えないから問題ないのかな？

気合いを入れたい時には剣道スタイル。そんな習慣が染みついている自分を恨みつつ、いろいろと諦めて袴に手をかけて紐を解いた瞬間。

スマホが大音量で鳴り響いた。

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【yugo】

Aこーちさああああん
A内定出たよおおおお
A決まったよおおおお
Aお祝いしてええええ
A横浜最高!!!!!

・・・文字がうるさい。ジェシーと慎太郎がセットで押し寄せてきたくらいうるさい。

うん、でもよかった。本当によかった。SPI対策？とか頑張ってたもんね。

お祝いくらい、文字じゃなくてちゃんと言ってあげたいから。仕事の合間に抜け出して、建物の裏側に回って電話をかける。

「もしも」
「もしもーーーーーーし！」
「うっせえ！声でけーんだよ！！」

最終面接なのに10人近く居たからダメだと思っていたらしい。面接が終わって連絡をくれたときには「余裕っす」って言ってたくせに。とんでもない強がりなんだな。

「そういえばさ」
「ん？」
「健人に連絡した？」
「・・・まだしてない」
「心配してるだろうから、連絡しときな」
「・・・うん」

・・・やっぱり、何か言われたか。

はぐらかした俺が悪いんだれど。

「よし、じゃあお祝いな。いつがいい？」
「あとはひたすら国試の勉強するだけだから、いつも暇」
「暇じゃねーじゃん」
「勉強は逃げないから」

12月に入るとまた忙しくなっちゃうから。

来月の、翌日がオフの日にお祝いをする約束をして電話を切った。