あの夏の過ち。〈降谷零〉 (ページ16)

今日:2 hit、昨日:6 hit、合計:63,062 hit

突然ページ16

何とも言えない感情が、どろっと湧き上がる。

それはまるで泥みたいな、重たく、汚い色をしている気がした。

蔑むほどの馬鹿ではない。

顔を歪めたくなるほどの強い匂いも纏っていない。

俺に好意を抱いていると思ってたけど、

だからといって見え見えの態度で接してくるわけでもない。

ただ少し、おどおどした態度が気になるくらい。

吉岡という人間は、もしかしたら俺が思ってるような人間ではないのかもしれない。

ふとそんな考えが浮かんで、何とも言えない…苦々しい感情が込み上げてきて、顔を顰める。

一体、こいつは何なんだ。

下げた頭をすぐに上げて、吉岡は再び荷物を詰め始めた。

立ち上がっているから、黒が見え始めた吉岡の頭頂部がよく見える。

なぜかぼーっとその一点を見つめていて、

「あの…降谷くん…？」

鞄に全て詰め込み終えた吉岡が、不思議そうな顔をこちらに向けたことでハッとした。

「…じゃあ」

「あ…うん…さようなら」

足早に図書室の扉へ向かう。

結局向かう先は同じ下駄箱だけど、そこまで一緒に行くほどの仲じゃないし、単純に気まずい。

俺が先に行けば、鉢合わせない程度に吉岡は少し遅れて下駄箱に向かうだろう。

鉢合わせない為にもさっさと帰ろう。

「…あ」

そうだ。言うことがあったんだ。

足を止め振り向くと、鞄を肩にかけた吉岡が困惑した表情でこちらを見ていた。

「明日から、俺が毎日勉強教えるから」

「………え！？」

「じゃあ」

言うだけ言って、さっさと図書室を後にした。

たぶん…探究心に負けたんだと思う。

想像していた人物像とは異なる可能性。

吉岡Aは一体どんな人間なのか。

何よりもあいつの学力レベル。

今日見ていただけでも、順位が最下位になるほど頭が悪いわけではなさそうだった。

だったら何で…。

興味ではない。

あくまでも"なぜ" "どうして"を知りたいだけの探究心だ。