06 鍋はいかが？ ページ6
さすがに声の掛け方が高圧的すぎたと反省した尾形は口調を和らげた。警戒されてはお話にならない。
おまけに口角を少しばかり上げて貼り付けたような笑みを見せた。
「わたし美味しいものたくさん食べる旅をしてて」
口の中のものをごくりと飲み込んでから、これは一人旅だから一人なのは当然なのでお構いなく、と尾形に説明するA。
単に軍人として無防備な女を心配して声を掛けたのだと思われたよう。だがこれでいい。そういう口実がいる。
「では何故こんなところで働いていたのですか」
「あ、ああー、それは…」
「無理矢理働かされていたのでは？」
「うーん半分合ってるけど！」
Aは目の前の親切な軍人さんに事の成り行きを説明した。自分のアホさが招いた結果で、しかもそれももうクビになってしまったのでどうぞご心配なく、と。
「ところで昨日は美味いオムライスを勧めてくれましたね。その節はどうも」
「え？…あっ…あの時の？」
彼女はどうやら彼の顔を覚えていなかったらしい。
いよいよ自分の勘違いが濃厚になる。
このままではもう出発してしまいそうだったので咄嗟に話題を変えたら、自分のことは覚えていないということを知った。これで会うのは三度目なんだが…
諜報員か何かであればそんな事はありえないだろう。鶴見中尉の言うようにどこか金持ちの家の娘が道楽で旅をしているだけ。
いろんな偶然が重なって変に勘違いをしてしまっただけなのだろう。
勘が鈍った。
「じゃ、わたしはこれで…」
まずい。彼女が行ってしまう。
いや別によいのだが。しかしあの鶴見中尉の言い付けだ。失敗すれば厄介なことになりそうな予感がする。
気づけば彼女の手首を掴んでいた。
「美味いものが食いたいなら…第七師団に来るといい。今夜は皆で鍋を囲むんだ」
先ほどまで尾形に何の興味も示さず真顔だったAの目がここ最近で一番の輝きを見せた。
実は彼女、無類の鍋好きなのだ。無類の鍋好きであり、無類の米好きであり、無類の肉好きでもあり…つまり食いしん坊なのである。
鍋、そう一言聞いただけで早速よだれを垂らし尾形の腕にまとわりつく。
さあ！早速行きましょう！
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 105人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ゴールデンカムイ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
メルテア(プロフ) - 炊きたてのお米くらいあっつあつじゃん？でもう笑いすぎて感想書いちゃいましたww主人公面白すぎるwww神作品ありがとうございます！！m(_ _)m (8月31日 8時) (
レス) @page28 id: 296f866ede (このIDを非表示/違反報告)
Chloe(プロフ) - 蛙奈さん» 蛙奈様へ。ありがとうございます！私の中で鯉登は普段ピュアピュアなのにたまに男らしさを見せるカッコイイ奴って感じだったりします！鯉登もちょいちょい絡んできますのでまた読んでいただけると嬉しいです！ (2021年10月10日 20時) (レス) id: b0de3b5808 (このIDを非表示/違反報告)
蛙奈(プロフ) - 鯉登少尉のピュアさに悶絶して思わずコメントしました…私自身鯉登少尉推しなのでとても嬉しいです！頑張ってください！ (2021年10月10日 16時) (レス) id: dbf954f045 (このIDを非表示/違反報告)
Chloe(プロフ) - 蛙奈さん» 蛙奈様へ。はじめまして！コメントありがとうございます！嬉しいです。色仕掛けちょいちょい出す予定です(笑)素敵なご感想ありがとうございました！ (2021年10月7日 19時) (レス) id: b0de3b5808 (このIDを非表示/違反報告)
蛙奈(プロフ) - コメント失礼します。とても面白いです！特に尾形の色仕掛けが色んな意味でドキドキしました！主人公の食いっぷりも読んでいてお腹が空いてしまいます。素敵な作品！更新待ってます。 (2021年10月7日 17時) (レス) id: dbf954f045 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Chloe | 作成日時：2021年10月5日 1時
